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リズと青い鳥 感想:7回鑑賞してたどり着いた絶景

リズと青い鳥』を映画館で7回目の鑑賞をしてきました。

 本当に本当に、素晴らしい作品でしたね。2018年前半でダントツで大好きな作品。たぶん2018年ベストの作品になりそうです。
『リズと青い鳥』ロングPV・MVより画像引用
当ブログの画像引用について
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 そんな自分もなんと初見では『まあ、悪くないけど・・・』ぐらいの感想だったんですよね(笑)今となっては信じられませんが。それだけ情報量が多くて受け止めきれない作品でした。

 2度目の鑑賞でそのすごさに衝撃を受け、4回5回で飽きるどころか心地よさすら感じてきます。派手な盛り上がりのない静かな作品なのにね。どうしてここまで心を掴むんでしょうか。

 それを言葉にしようとするんですが、言葉にしようとすると消えてしまうんですよ。そんな『はかない幻のような感覚』を表現した作品。

 初日に見てから3ヶ月あまり・・・ようやく自分のなかでこの作品の感想を書き上げる事ができました。この作品の素晴らしさはすでに多くの方が書いていますよね。

 ただ、自分が7回鑑賞してやっとたどり着いた解釈は書いておきたかった。この構造に気がついて、見える景色に本当に感動したからです。

 とっくに周知の解釈かもしれないし、正しいかもわかりませんが、自分の感情の軌跡と共によかったら読んでください。

ネタバレを含むレビューとなります。個人的な考察ですのでご了承ください。

初見では違和感・・・でも涙が?


 楽しみに待っていた公開日。話題の原作小説はあえて未読で、ネタバレ情報は一切入れずに初日に鑑賞したのですが・・・。

 初見の感想は正直微妙な感じでした。今では我ながら苦笑してしまうのですが・・・童話シーン、日常シーン、平板な構成、キャラデザ、ブツ切れの2段エンディング・・・などなどやたらと違和感を感じたんですよね。
もちろん初見でも良いところはたくさんあった。
特にみぞれの瞳の芝居が素晴らしい。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 それにもかかわらず溢れてくる涙・・・なんで?って感じの涙。これって『聲の形』と同じなんですよね。何かを感じるのに受け止められてない感じ。情報量が多すぎて処理できていないんです。

 聲の形よりもさらに抑揚の少ない構成なので一層不思議な感じでした。前作総集編『届けたいメロディ』は非常にわかりやすく感動的な盛り上がりのある作品だったので、この静かさに戸惑ったんですね。
関連記事 劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~ 感想:2期の総集編?これは新作と合わせた加筆完全版だ! - アニメとスピーカーと‥

景色が違う!2度目に見た衝撃


  それが2度目の鑑賞では全然見える景色が違うんですよね。初見では冗長に感じた童話シーンがすごく意味を持って見える。何だこれ?ってくらい印象が変わりました。

 それでも何だかよくわからないタイミングで涙が出てくる。明確な盛り上がりで感動させるという構成じゃなくて、気づかないうちに感情のプールがいっぱいになっている感じ。だからちょっとの揺れで涙が溢れてしまう。
初見では『長くて退屈』にすら感じていた童話シーン
声の演技も初見とは全く評価が変わった。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 山田監督の作品は『初見の印象はアテにならない』って自覚はしていたんですけどね。まさかここまでとは。実際2度目を見るまで『今回ばかりは自分にはちょっと合わない作品かなぁ・・・』なんて本気で心配していたんです(笑)

 さすがにここまで鮮やかに評価を変えさせてくれると、ほっとするやら感心するやら妙な気分になりました。でもこういう作品はジワジワ心を侵食して虜にされてしまうんですよね。

緊張感が心地よさに入れ替わり・・・


 そして3度4度目になると、これまでのピンと張り詰めたような印象から、もっと浸っていたいような心地よさに変わってきました。

 最初は二人の劇的なまでの緊張感こそがこの作品の魅力だと感じてました。フルートパートの会話シーンや、ダブルリードの会のエピソードのような、いわゆる『日常パート』は緊張を和らげる『箸休め』だと。初見の頃はちょっと邪魔だなと感じてたくらいでしたね。

 でもだんだん、その『日常パートの魅力』に惹かれていったんですよね。
フルートパートの会話劇は大好きで本当に癖になった。
特に『キミ持ってないよね?ワンピ』のシーンは最高
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 演劇部を舞台にした日本映画『櫻の園』が好きだったので、こういう何気ない会話劇がすごく魅力的でした。だからこの頃は『のぞみぞ2人の物語』と『日常の会話劇』の二つがこの作品の魅力だと感じてました。

 でもね、なんか違和感あったんですよね。この日常パートは果たして緊張感を和らげるための『箸休め』なのかな?なにか特別な意味があるような・・・。

日常シーンの重要さに気がつく!


 でも6回目を見終わってから気づいたんです。希美がフルートパートで楽しく話をしている時の、ちょっとだけ無理してるような違和感

 笑い方とかセリフとか・・・なんかイマイチ馴染みきってないというか、装っているというか。なんか妙な緊張感が混ざっている気がする。
すごく和むシーンなのにわずかに緊張感を感じる。
それは希美が無意識に空気を読んでいるのが伝わるから?
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 それに気づいた時・・・『希美とフルートパート』そして『みぞれとダブルリードの会』はそれぞれセットになって希美とみぞれの人間性を対比させているんだと気付きました。

  • 希美:空気を読んで無意識に演じている
        →本当の所で心を通わせていない。
  • みぞれ:空気を読まずにシャットアウト
        →でも徐々に心が通っていく。

 日常シーンは二人のシーンの重要な伏線なんだって、両方を一体として理解した時・・・この作品の深さに驚愕したのです。

あるべき自分を演じている希美


 希美はフルートパートに溶け込んでいるように見えて、実のところ本当には心を通わせていない。どこかみんなから『あるべき姿』を演じている。そんな風に見えるんですよね。

 憧れられる存在、頼られる存在として、そのイメージ通りの存在であろうと、無意識かもしれないけど頑張ってしまう。きっと集団退部の時もそんな感じだったんだろうな。

 本当のところはフルートパートのあの『ノリ』にはついていけないのに、うまく乗ってしまう器用さ。途中復帰なのにすぐに馴染めてしまうコミュ力の高さですよね。
希美の笑顔は嘘ではないんだろうけど
独特の『演じている感じ』がする。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 でも、ところどころで見え隠れする、無理に笑っている感じ、演じている感じの違和感。表情やセリフからなんか滲み出てくるんですよね。

 それがフルートの日常パートにおける、和みと緊張感の入り混じったような不思議な感覚の原因か!そう思った時・・・すげぇ・・・と一人感動してしまいました。

本当の意味で心通わせるみぞれ


 それに対してみぞれは、希美と正反対に後輩の誘いをシャットアウトして、何と思われようと気にしない。一見すると依存性が高くて弱い存在のようで、実はすごく頑なで強い

 でもみぞれは徐々に後輩たちに心を開いていくんですよね。希美が『求められる自分』を演じるばかりに表面的な人間関係になっているのに対して、みぞれは自分に正直に生きることで逆に心を通わせられる人間関係を作っていく

 そんなみぞれを知ったときの希美の心中はどうだったろう。プールの写真にもフルートパートの人は写ってないじゃないですか!つまり希美が誘いたい友達はフルートにはいない。
オーボエのような声の剣崎梨々花。
最初は違和感あるキャラだったけど慣れると最高に魅力的。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 後に希美が『みぞれが思うような人間じゃないんだよ』とか『むしろ軽蔑されるべき』と自嘲するシーン。この伏線を踏まえるとさらに厚みを感じませんか?

 そして『ずるいよ』ってセリフ。楽器の才能だけじゃなくて人間関係もだと考えると・・・理不尽に感じる希美の気持ちがすごくわかる気がします。

 箸休めだと思っていた『日常パート』が実は、みぞれと希美の人間性をこれほどまでに見事に表現していたとは・・・しかもこれほどまでに魅力的にね。本当に驚きました。

二人に寄り添う夏紀の立ち位置


 そして、その二人の両方をサポートするのが夏紀なんですよね。

 みぞれへのサポートは本当にカッコイイですよね。フラットな関係性で押し付けがましくない優しさ。正論で済ませない。人の気持ちに気がついて寄り添う。

 みぞれだけじゃなくて希美も夏紀に相談してますよね。夏紀への相談しやすさって、優しさもあるけどアウトサイダー的な立ち位置ってのもあると思います。
クールなようで人の気持ちを汲む事ができる夏紀
集団退部や選抜落選など自分の無力さを冷静に受け止められる人
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 体面を気にする希美も夏紀の前なら素を出せる。敵でも味方でもない。味方ですらガッカリされたくないので弱音は吐けないのが希美の性格ですよね。

 夏紀なら気を使わなくて良いんだろうな。でも夏紀だって『我が道を行く』という性格なわけでなく、人の気持ちに敏感だからこそ無意識にそういう立ち位置になった気がしますね。
 
 夏紀の魅力って自分の無力さを知ってるからこその優しさだと思うんですよね。上から目線でアドバイスせず寄り添う事ができる人。なんかそんな存在でありたいなぁと思います。

 ・・・と、ここまでが自分の解釈でした。初見ではバラバラに見えたシーンがどれも無駄なく働いている。でも決して難しい作品ではなくて、面白くて近づくとどんどん見える感じ。すごいよね。何重にも感動できる作品でした!

自分の選ぶ名シーン4選!


 最後に特に感動した名シーン!

 しかしここまで名シーンが多い作品ってのもすごいよね。どのシーンが好きかって言われてもとても選びきれない。考え始めると何もかもが素晴らしいシーンの連続です。

 そんな中で特に印象深いシーンをあえて4つ選びました。
 
  • 言葉でなく演奏で感動させるオーボエソロ!
このシーンは何度見てもすごいなぁって思います。セリフなしでここまで表現できるものか?と驚愕のシーンでした。
気がつくとセリフが一切ないのにはっきりと物語性を感じる。
これまで感じた事のない体験だった。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 劇伴としてクライマックスを演出するのではなくて、演奏自体をセリフのように使うという離れ業。曲の素晴らしさもありますがその演出力に圧倒されました。

  • フルートの光のシーン
本当に大好きすぎるシーンです。みぞれのつかの間の幸せな笑顔。一瞬でフッと消えてしまう幻のような瞬間。この作品を象徴するようなシーンだと思います。
このシーンはアニメオリジナルらしいですね。
本当に奇跡のような素晴らしいエピソード。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 見ている方も幸せと切なさでどうにかなりそうになりますね。それにしても、この部分の劇伴の素晴らしさ!ピアノのメロディーがみぞれの心と見事にシンクロして涙が出てきます。

  • 夕焼けにたたずむ希美
モノローグから突然転換する希美が一人で夕焼けを眺めるシーン。あの緊張感からの流れでパッと転換する構成が見事。空気が一気に変わります。

 理科室から廊下を歩く希美の一連のシーンはどれも素晴らしいカットの連続ですよね。みぞれを誘う回想シーンにも感動しました。冒頭のみぞれ視点の回想シーンと対になっていているんですよね。
ハグからの一連のシーンは名シーンだらけ。
でもこのカットの入れかたは特に秀逸だと思う。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 このシーンは『錬金術師の隠れ家』の、びおれん(@phanomenologist )さんの考察がすごく好きです。本作で特徴的な『色彩表現』の解釈が素晴らしいと思いました。
『希美とみぞれを表すところの赤と青が、ここで初めて、紫がかった空と街並みとして混じり合う。希美とみぞれが互いの立場の逆転を自覚するという仕方で、両者は混じり合っている。』
傘木希美という「作品」ー『リズと青い鳥』を巡って(みぞれとは別の視点から考察する) - 『錬金術師の隠れ家』より引用

  • ラストシーンのハッピーアイスクリーム
そして、あのラストシーン。『ハッピーアイスクリーム』からのみぞれの笑顔。数あるシーンのなかでも、このシーンがあるからまた見たくなっちゃうシーン

 もう最高に幸せなみぞれの笑顔。見ている自分もこの一瞬が永遠に続いてほしい・・・って願ってしまいます。お願いだからまだ終わらないで!って(笑)
劇中で初めて学校を出るシーン。
鳥かごから出るという解釈も素敵ですよね。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 でも『フルートの光のシーン』と同じく二人は噛み合っていないんだよね。また少しズレてる。その切なさも含めて猛烈に感動します。

 ここも劇伴が神がかってるんですよね。最後ピアノのトーンが変わるところで必ず涙が溢れてしまいます。

 一見すると静かでなんでもないシーン。でもすごくいろんな思いが織り込まれているんですよね。あのラストシーンの素晴らしさは見事としか言いようがありません。

通常のキャラデに戻れるか心配(笑)


 あと、もう一つ言及したいのは西屋さんのキャラクターデザイン。発表された時は違和感が強かったんですよね。こんな生気のないキャラで・・・TV版の希美が好きだったので心配してました。

 でも今や、元のデザインに戻れるか心配なほど。ホント良いですよね。

 同じ青春でも、TV版が『焼きつくような熱い青春』なら、リズは『消えてしまうような儚い青春』を表現している気がするんですよね。確かにTV版の色彩やデザインではリズを表現しきれない
シンプルだけどすごくリアル感のあるデザイン。
優子のリボンもリアルな大きさになったのは残念(笑)
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 キラキラ輝くTV版に比べて、カワイイ盛りを排した表現。どのキャラクターも、人間の『生々しさ』がちょっとだけ混じった気がします。

 特に麗奈ですね。TVシリーズではキラキラした彼女ですが、本来はああいう印象だろうなって。冷たく厳しい。まさにイメージ通りでした。

 あれならデカリボン先輩も食ってかかるはずだよなぁ・・・ってすごい納得してしまった(笑)リズではあんまりデカリボンじゃなくなりましたが。

 希美もTV版では本当に可愛いキャラでしたが、リズでは微妙に違和感のある感じ。ほんの少しの『嫌な感じ』がうまく表現されていましたね。

おわりに:山田監督の解釈を楽しめてよかった


 山田監督の作品って情報量が多くて一度ではちゃんと受け止められないんですよね。『たまこラブストーリー』も『聲の形』も初見ではちゃんと評価できませんでした。

 だから、もし『初見でイマイチ・・・』って感じた人がいたらぜひもう一度見ることを勧めたいですね。

 特に今回は原作未読でしたが結果的に良かったな。前作の『聲の形』でもそうでしたが、自分は山田監督&吉田玲子さんの作品解釈がすごく好きなんだと思います。

 原作をリスペクトしているのは当然なんですが、セリフに限らず、表現方法も含めて、アニメでしか表現できない方法での再解釈。そこに独特の『優しさ』がにじみ出ていてね。それが素晴らしい。

 だから原作に影響されず、まずは純粋に山田監督の解釈を楽しめてよかったなって。心から驚き感動しました。本当に素晴らしい作品でした!

『リズと青い鳥』 公式サイト
http://liz-bluebird.com
関連記事 映画 聲の形 の感想 前編:全てにピントが合った時の衝撃に言葉が出なかった - アニメとスピーカーと‥

追伸:『鎧・・・じゃなくて剣崎』の意味


 ちなみに剣崎梨々花ちゃんが、自分の名前を間違えて『鎧・・・じゃなくて剣崎』っていうのは鎧塚先輩の相談をしようと頭一杯でつい出ちゃったって感じですよね。

 新山先生が同じように『鎧・・・じゃなくて剣崎さん』って間違えるのは、同じ理由かもしれないけど、自分は『鎧』と『剣』が同じイメージで覚えてて、うっかり入れ違っちゃったって感じかなぁと思いました。

 ここなんか面白くて、梨々花ちゃんのキャラ付けとしても秀逸ですよね。原作だとある場面なんですかね?2〜3回目くらいまでどういう意味なんだろうと結構考えてました。

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未来のミライ 感想:これは細田守の『夢十夜』なんだ。

未来のミライ』を映画館で見てきました。

 すごいなぁこれは・・・とんでもない作品だと思いました。『ほんわかハートフル作品』には違いないのですが、実のところものすごい挑戦的な作品賛否両論あるでしょうけどね。

 でも、この作品がハートフルなだけの薄っぺらい映画であるはずがない!自分はこの作品がすごく複雑で重厚だと思うし、今だからこそ細田監督が描くべき作品だと感じました。

 実を言うと自分は細田監督の家族礼賛的な描写が結構苦手なんですよね。『時をかける少女』以外はファンとは言えないのですが・・・この作品はそんな自分も絶賛するしかない。複雑さと軽やかさを両立させた傑作だと思います。

山下達郎「ミライのテーマ(Short Version)
初見の状態でも感動したけど鑑賞後に聴くと涙出てきますね(笑)
予告編よりも素晴らしいMVです。

ネタバレを含むレビューとなりますのでご注意ください。個人的な評価です。

こんな夢を見た・・・細田守版の『夢十夜』ではないか?


 この作品の批判でよく見るのは『意味不明なストーリー』と『作品としての浅さ』じゃないでしょうか?確かに表面的にはそう感じるのもわかります。

 自分も中盤までは『あ〜はいはい家族礼賛ね』とちょっと斜に構えていたのも事実です(笑)でも後半に未来のくんちゃんと出会いファンタジーの東京駅を見た時に気がつきました。
見事すぎるファンタジー東京駅
直前の田舎駅からの構成は素晴らしいと思う。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)
当ブログの画像引用について

 あ、これは細田守版の『夢十夜』だったんだ。夏目漱石の『こんな夢を見た』・・・で始まる不思議な物語。そうだとすれば『つじつま』とか『盛り上がり』とか、この作品の異様な部分は納得できると思うんですよね。

 犬のゆっこ、未来ちゃん、おかあさん、ひいじいちゃん、そして、未来のくんちゃんとファンタジーの東京駅へ・・・小さな物語をつないでいく不思議な構成が、夏目漱石の『夢十夜』を強く連想させました。

『長い夢』から始まるテーマ曲の意味


 そう思ってみると冒頭のテーマ曲。コレ意味深じゃないですか?

 いきなり山下達郎の楽曲から始まる素晴らしいオープニングで、まるでエンディングみたいな構成が素晴らしくて感動しちゃったんですが・・・最初の歌詞の一節。
長い夢から 醒めたばかりの 瞳が僕を見つめてる
(作詞:山下達郎/ミライのテーマより)

 この歌詞はもちろん『未来ちゃんが生まれたお父さんの視点』なんですけどね。でも『こんな夢を見た』という夏目漱石の書き出しと重なってしまうんですよ。

 で、問題は誰の夢なのか・・・ってことなんですが。

未来ちゃんがこんな夢を見たんじゃないか・・・という細田監督の夢


 この作品を夢想している一番大きな視点は『細田監督』なんですが、物語の中で夢を見ているのは『未来のミライちゃん』のような気がするんですよね。

 ちょっと言葉で表現しにくいんですが・・・自分には

 細田監督が『未来のミライちゃんがこんな夢をみたんじゃないかな?』と夢見た世界を描いた気がしてならないです。
お父さんが疲れて居眠りするシーンがあるけど
この作品自体が『夢』であることのメタファーに見えた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 その夢の世界をあえて未来ちゃん視点ではなく『くんちゃん視点』で構成している・・・強引な解釈かもしれないけど、そうだったら面白いなぁって。

キレイに閉じられる物語の入れ子


 だって、『お母さん』や『ひいじいちゃん』のエピソードはあるのに、『お父さん』のエピソードは間接的にしか出てこないのはなぜか?

 これがあくまで父によって作られた夢であるからじゃないかな。

 そして『ミライの未来ちゃん』と『赤ちゃんの未来ちゃん』は同時に存在できないのに、『子供のくんちゃん』と『未来のくんちゃん』は会話できる不思議。

 これって未来ちゃんの夢の主体だからでは?
赤ちゃん時代の未来ちゃん
なぜ彼女は同時存在を認められていないのか?
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 そして最後に、クライマックスの後に兄弟が朝食を食べて学校に行くシーン。これは『未来ちゃんの夢』が終わった『目覚めの朝』を意味している気がします。

 そして語り手である子供の『くんちゃん』は家族に戻り、夢の作り手である『お父さん』がお母さんと語るシーンで映画は終わる・・・。

 ひっくり返されたおもちゃ箱のような世界がキレイに閉じられていくような、こんなに美しい構成・・・と感じたら感動してしまいました。

最初は薄っぺらい話だと思っんですが


 実のところ自分は中盤まで、薄っぺらい話だなぁ・・・とちょっと呆れ気味でした(笑)でも途中で気づいたんですよね。

 それは、未来ちゃんがタイムリープする理由。女子高生(中学?)のくせに『婚期に遅れたくない』というしょーもない理由なこと。は・・・SFじゃないの?
しょーもない理由でタイムリープするのは
『時かけ』の真琴を強くイメージさせる。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 でも『そうは言っても後半で実はスゴイ理由があるんでしょ?誰か死ぬの?おかあさん?おとうさん?』なんて・・・期待してたら(ゲス笑)、なんの悲劇も起こらずに静かに終わる物語

 おいおい、大スペクタクルのSF作品のように思わせておいて、実のところSFでもなんでもなくて、整合性の全くない破綻したストーリー?

 いやいや・・・な、わけないよね?あまりにも露骨な破綻ぶりで逆に気がつけました(笑)

破綻した脚本なはずがない!


 これは、生まれたばかりの我が子の成長を見た細田監督が、この子はどんな夢を見るんだろう・・・と夢想して作った作品なんだと。

 言葉もわからない未来ちゃんが『雛人形の話』を聞いて将来気にしちゃうんじゃないかな・・・とか、君たちはこんな奇跡みたいな繋がりの末にいるんだよ・・・とか、父の視点から子供達に伝えたいことが詰まった作品。
過去の色彩が独特なのは
アルバムの写真の記憶が投影されているのだと思う。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 この『夢の中の夢』のような構造を感じた時、薄っぺらくて内容のない物語から、すごく複雑で挑戦的な物語に変わりました。

 自分のこの解釈が正解かどうかなんてわかりません。初見での感想ですしね。でも、これまでヒット作を作ってきた細田監督がわざわざ破綻したストーリーを発表するわけもないわけで。

 これまでの作品を踏まえた上で『さらに抽象度の高い作品』として挑戦したんじゃないかなと。

現代だからこそふさわしい作品


 『サマーウォーズ』で大家族を描き、『おおかみこどもの雨と雪』などで社会の片隅に光をあてる作品も作ってきた細田監督が、どうしてこの作品を作ったか。

 正直この家族は恵まれていますよね。両親が共に立派な職業を持ち祖父母の応援もある。もっと描くべき社会問題があるじゃないか・・・と。

 でも、ここで両親に問題があったり、死んだり、失業したり・・・では、この作品のテーマはボヤけると思うんですよね。
おそらく自宅も親の援助があったのかな?
でも子育てに親が協力するのは本来当たり前の姿。
核家族化でそのことが忘れられてきた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 社会で苦しんでいる人たち、日の当たらない人たち・・・そういう部分に焦点を当てるのも映画の力ですが、いま彼が表現するべきことはそれじゃなかった。

 今の日本・・・というより少子化の進む国の人間だからこそ、子を持つ喜び、育てる喜びを伝える必要があって、恋愛をポジティブに描く作品が必要なのと同様に、子を持つことをポジティブに描く作品が必要とされていると思います。

 そこには余計な事件は必要ない。子供が生まれたという以上の事件なんてない。伝えたいのは『子育ての大変さ』じゃない。『子が生まれたという喜び』を伝えたかったんだと思います。

 この当たり前すぎる自明なテーマが当たり前でなくなりつつある社会・・・これこそが日本が抱える大きな社会問題であり、いまこそ彼が作るべき作品だったのだと思います。

自分にもあったかもしれない未来


 正直言うとね、子供がいない自分にはすこし『痛い』です。繋げなかった苦しさってやっぱりあるんだよね。各方面に申し訳ないというか。

 劇中で『ちょっとした理由で違う未来があったかも』というシーンがあったけど、自分はもしかしたら、その『違う未来』を生きているのかもしれないって・・・思うんですよね。

あったかもしれない未来』を想像したとき、生まれてこなかった我が子に『ごめんね』って気持ちになる。(別に死産とかそういうことじゃなくてね)

 でも何が良いかなんてわからないし、結局選ばれた未来を生きるしかないよね。

 自分は『未来が過去を変える』という考え方が好きなんだけど、ひいじいちゃんが特攻で足を負傷したのも、その時点では不幸かもしれないけど、その後に不自由がキッカケで幸せになって『過去の意味』が変化したわけですよね。
祖父は先祖とのつながりを表現すると共に
未来が過去を変えることへのメタファーに感じた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 未来ちゃんの手のアザだって・・・祖父母は心配するけど、あのおかげでくんちゃんにすぐ気付いてもらえたし、未来ちゃんの幸せのキッカケになるかもしれない。

 なにが幸せかなんてわからない。この作品にはそんなメタファーも込められていると思うんですよね。

最後に


 まあ、ずいぶん絶賛しましたが全然違ってたらごめんなさい(笑)こういう解釈もあるよねってことで。

 それに細田作品で一番好きなのは?と言われればやっぱり『時かけ』かな。これは自分の好きなアニメ映画のトップ5に入る作品ですね。今でも。エンターテイメントとして非常に優れていますよね。

 でも複雑さとか構成の面白さという点では『未来のミライ』は負けてないどころか最高だと思います。

くんちゃんの声は女の子の声に聞こえる違和感。
でもこれも未来の見た夢だからと解釈できるかも。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 冒頭に『エンディングみたいなオープニングだった』と書いたけど、見終わった後はやっぱり、あのオープニングはエンディングと繋がっている気がしますね。曲こそ違えどもほどんと同じ構成だし、2度目を見たら冒頭でいきなり涙が出る気がします(笑)

 実は全く期待してない作品だったのですが・・・いい意味で裏切られました。やっぱりさすがですね細田監督は。
 
『ミライの未来』公式サイト:http://mirai-no-mirai.jp

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