Pages

.

映画『若おかみは小学生!』感想:どうしてここまで感動するのだろう・・・それは

 映画『若おかみは小学生!』を映画館で見てきました。もう思いっきり泣いてしまいましたね。突然のクライマックスからの畳み掛けるような感動・・・そして、あんな素晴らしいエンディング見せられたら、もう涙が止まらないじゃないですか!

 明るくなっても涙が溢れてしまってすぐに立ち上がる事ができませんでした。もちろん子供向けらしさはありますが、親世代の30〜40代も激しく心を動かされる作品。これこそまさに『全年齢向け』と呼ぶにふさわしい作品ですね。
予告編より画像引用(当ブログの画像引用について
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 人が社会に包摂されていくとはどういう事なのか。悲しみを受け入れるとはどういう事なのか。今の私たちにとって花の湯温泉の物語は大切な寓話のように感じました。

 素晴らしい動きと色彩でアニメーションとしてのクオリティーも抜群。長編作品を劇場版にまとめた挑戦的な構成にも脱帽です。原作小説もTV版も未見でしたが、思い切って見に行って良かったです!

映画『若おかみは小学生!』本予告(公式)
この予告編は素晴らしい出来ですね!これを見て見に行く気になりました。

※TV版・原作小説は未見での考察・解釈です。
※以下ネタバレのあるレビューですのでご注意ください。

どうしてここまで感動するのだろう


 どうしてあんなに泣いてしまったんだろう・・・見終わった後に思い返してみると不思議とよくわからなくなるんです。悲劇のおっこがかわいそうだから?いやいや、悲劇は最初からわかっていたじゃないですか。なんであんなに感動したんだろうか。

 きっとそれは、見ている自分たちもおっこと同じような不思議な感覚にさせてくれるからだと思うんです。あれ?『お父さん、お母さん、いるじゃん』って。確かに死んだはずって・・・それは情報としては知っているんですよね。

 でも、観客である自分たちにも死の実感がない。もしかして・・・何かのまちがいじゃ?奇跡が起こるんじゃ?って・・・この曖昧な感覚。なんだかまだ居るような感覚。これっておっこの感覚と同じじゃないですか?
曖昧な形で現れる両親
おっこと同じように観客も不思議な気分になっていく
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会
予告編より画像引用(当ブログの画像引用について

 でもだんだんと、ああ、やっぱり違うんだな。間違いじゃないんだなって。1時間かけて少しずつ納得していく。おっこと同じように自分たちもだんだん受け入れていく

 観客である私たちに、おっこの精神状態を追体験させているんです!これってすごくないですか?

別れを受け入れる過程をおっこと共有していたから


 だから、ラストのあのシーンで、おっこと同じように感情が爆発してしまう。1時間以上の積み重ねの結果、いつの間にか心がおっことシンクロしてしまっているから。

 あのシーンだって、見てない人に言葉で説明したって全然ピンとこないはずなんです。あの積み重ねを経ているからこそ涙が溢れる。
感動の理由は言葉では表せない
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 94分という限られた時間の中で、長編の小説や、TVシリーズと同じ事はできない。でも映画ならできる事・・・それは94分間一気にその世界に没入させること。その特徴を最大限利用して観客の精神状態ををおっことシンクロさせていく

 だから単に悲しい出来事で感動したんじゃない。時間をかけて別れを受け入れていく過程をおっこと共有している。これは言葉では表現できないことですよ。

 この離れ技を成功させる事で、単なる成長譚を超えて、より深く人の心を動かす作品になっているんだと。そしてそれに気づいた時、この作品の凄さにもう改めて感動してしまいました。

『一緒にいられなくてごめんな』


 おっこの両親もきっと幽霊として存在していたんだろうなって、あれはただの夢じゃないと思うんですよね。あれは両親がおっこに見せた夢
両親もまた霊としておっこのそばにいたのかもしれない
声は鈴木杏樹さんと薬丸裕英さんが担当
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 両親はきっと自分たちが死んだ事すら実感できなかったのかもしれない。だから夢でおっこといつもの生活をしていたのかな。でも時間が経ち、両親も運命を受け入れ、おっこが力強く生きている姿をみて別れの言葉をいえた。

 それが『さよなら』ではなくて『一緒にいられなくてごめんな』っていうのが二人の無念を表している気がするんですよね。

この世への未練から解放されるまで


 見る前は、幽霊との別れが感動ポイントになるのかなぁ・・・って想像してたんですよね。あの予告編はホント出来が良いですよね。あれだけで感動しそうになるんだけど、絶妙にポイントずらしてネタバレ回避してるのがすごいね(笑)

 でも霊との別れは、つまり霊が成仏できるって事。現世への未練から解放されるすごく前向きな事なんですよね。
幽霊の美陽とウリ坊、小鬼の鈴鬼
霊たちの生き生きとした(笑)動きも見所
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 ウリ坊も美陽ちゃんも『生まれ変わった後も絶対わかる』って言ってたから、生まれ変わりの様子も出るのかとちょっと期待しちゃいました。残念ながら本編では出なかったけどすごく想像が膨らみますよね。

 きっと誰かの子供として再会できるのかなって・・・そういう展開は好きです。でもウリ坊はミネちゃんとちゃんとあの世で再会してからにしてほしいですけどね。

 でも霊たちもやっぱり『花の湯温泉』に受け入れられて癒される存在だったのかな・・・と思うんですよね。この世への未練が断ち切れるまでいつまでだって受け入れてくれるような。

花の湯温泉のお湯は・・・


花の湯温泉のお湯は、誰も拒まない、すべてを受け入れて癒してくれるんだって』という、このセリフ。予告編の時から印象的だったけど、ラストシーンでは何重にも心に響いてきました

 おっこが頑張って人を助けるのもこの言葉のおかげ、でもおっこ自身も花の湯温泉に受け入れられ、癒されていたんですよね。
地域の一員となった象徴としての神楽
動きや色彩も本当に素晴らしい。
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 両親といた頃は3人だけの家族で、それはそれで幸せだったけど、失ったときはひとりぼっち。社会から切り離されたおっこ。もちろん日本では彼女を保護する仕組みはあります。

 でも単に保護されるとか、支援されるだけじゃ人間は幸せに生きていけない役割があり、社会で存在しているという実感があって人は力強く生きていける。

 それって、どんな人も社会の一員として取り込んでいくという『社会的包摂』の考え方なんですよね。これからの日本にはとても大事な考え方だと思ってるんだけど、こんなに分かりやすい形で表現されている事に感動しました。

監督のコメントに痺れた!(本項 追記)


 鑑賞後に監督のコメントを読んで痺れました。
 この映画の要諦は「自分探し」という、自我が肥大化した挙句の迷妄期の話では無く、その先にある「滅私」或いは仏教の「人の形成は五蘊の関係性に依る」、マルクスの言う「上部構造は(人の意識)は下部構造(その時の社会)が創る」を如何に描くかにある。

 主人公おっこの元気の源、生き生きとした輝きは、春の屋旅館に訪れるお客さんに対して不器用ではあるが、我を忘れ注がれる彼女の想いであり、それこそがエネルギーなのである!(後略) - 公式サイト 監督: 高坂希太郎氏コメント より引用

 これは悪用すれば、昨今のブラック企業における『やりがい搾取』に繋がる怖い考えです。事実、今の社会では少し避けられている考えかもしれません。直感的に嫌な印象を感じる人も(自分を含めて)少なくないと思うんですよね。

 でも本来は人間の生き方として、とても大切な考えなはず。この作品はその描き方が本当にうまいと思うんです。

 この作品は決して『滅私奉公』的なものを美化しているのではなく『役割』が人間の支えになるということを描いているんだ・・・そう解釈しました。だから自分にも抵抗なく受け入れられたんだと思います。

 見終わった後にこのコメントを読んだときは唸らされましたね。逆に見る前に読んでたら・・・『厳しい修行の成長物語』みたいに誤解して見に行かなかったかも(笑)ちょっと危険なコメントですね。

エンディングの素晴らしさ


 それにしてもエンディングは素晴らしかったですね。本編のカットをあえて手書きスケッチで入れていく演出。楽曲と相まって最高でした。カット数もふんだんに入ってるので、涙を流しながらも必死で目を開いてました(笑)

 止め絵なんだけどものすごくいい味なんですよね。絵を見てるだけで涙が出てきます。それにあの楽曲。藤原さくらさんの『また明日』。いいですよね。

藤原さくら 「また明日」 (short ver.)(公式)

 ほのぼのとした感じの曲で導入部は感動とはちょっと違うんだけど、あのサビが流れると・・・もうやばい(笑)本当にあのエンディングとぴったりでした。

 このカット入れるエンディングは他のアニメでもやってほしいですね。

本当にピッタリな小林星蘭さんの演技


 声優さんは関織子こと『おっこ』役の小林星蘭さんが良かったですね。まだ12歳だそうですが子役としてのキャリアは長いんですね。ホント魅力的でした。子供っぽさとプロっぽさが同居した独特の雰囲気

 子役って上手すぎてちょっと違和感を感じる事もあるけど、この作品に限ってはもうピッタリ!頑張り屋で良い子過ぎるくらい良い子なおっこには、演技上手な子役の雰囲気とものすごい合ってると思うんですよね。
現実離れするほど良い子のおっこ
子役ならではの演技がうまく噛み合っている
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 子役といえば幽霊の美陽ちゃん役の遠藤璃菜さんも12歳なんですね。この人は『甘々と稲妻』のつむぎ役だったそうで、どうりで上手なわけですね。声優さんかと思いました。TV版では日高里菜さんだったそうですが、自分は未見だったので素直に入る事ができましたね。

 他の出演者はタレントさんが多かったですが、全然違和感を感じませんでした。作品に馴染んでるんですよね。確かに、声優さんじゃないだろうな・・・とは感じましたが作品の邪魔をしない声でしたね

 むしろ最後の客である木瀬文太役の山寺宏一さんは『昭和元禄落語心中』の助六が思い浮かんじゃいましたね。まあちょっと雰囲気かぶってるので良いんですけどね。

最後に:今見るべきアニメーション映画の傑作


 この作品のタイトル絵柄もあって、やっぱり見る前はちょっと抵抗ありました。キャラクターも子供向けを超えて幼児向けっぽいし。美陽ちゃんなんか特にね。大人が見ちゃダメなやつかなって。

 でも実際に本編を見ると、アニメーションとしてのクオリティーの高さに子供向きなんて事は忘れてしまいました。素晴らしく生き生きとした動き!それに美しい色彩!特に色彩の美しさは見所だらけの作品といっても良いですね。
色彩の素晴らしいシーンが沢山あるのも魅力
高坂監督自身が色彩にこだわりのある方みたいですね。
©令丈ヒロ子・亜沙美・講談社/若おかみは小学生!製作委員会

 この作品は公開と前後してTVシリーズ24話が完結。そちらもすごい高評価だったみたいですね。自分は全くの未見でしたが、逆にそのおかげで素直に映画の世界を受け入れられたのかもしれません。

 もちろん子供向け作品には違いないのですが、間違いなくアニメーション映画として今見るべき作品の一つです。できれば映画館で思いっきり没入して見たい作品。

 思いっきり泣きましたが、決して辛く悲しい涙じゃない。とても清々しい前向きな涙説教くさい話が大嫌いなひねくれ者の自分にも素直になれてしまう。素晴らしい作品でした!


原作:令丈ヒロ子
監督:高坂希太郎/脚本:吉田玲子
美術監督:渡邊洋一/色彩設計:中内照美
制作会社:DLE/マッドハウス

映画『若おかみは小学生』公式サイト
https://www.waka-okami.jp/movie

reade more... Résuméabuiyad

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」感想(短評):選択と選択を結んだ未来

 アニメ版の『君の膵臓をたべたい』を映画館で見てきました。

 主人公のツンデレ?的展開に座席でモニョモニョしてしまいました(笑)こんな男いるかよ〜と思いつつも、こんな男だから選ばれたんだよなぁ・・・とも思うわけで。でも単にラノベ的モテ展開を楽しむ作品じゃないですね。
ある意味ラノベ主人公っぽいけど
この作品ではこの性格にすごく意味があるのが面白い
© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ
本予告より画像引用(当ブログの画像引用について

 この作品って『死という結末』をあらかじめ明示した上でどう展開するのか?が楽しみだったのですが、そういう意味ではなるほどなぁという構成でしたね。面白いと言っては語弊がありますが。

 でも冒頭のあの入り方はうまいですよね。さすがにあの場面から入るとは思わなくてちょっとビックリしました。後半どう展開させるんだろう・・・って。

 割とお涙頂戴な作品かなぁ・・・と斜に構えてるところもあったのですが、やっぱり涙は出ましたね。でもそれ以上に『君と出会うために選択した』の意味とか『星の王子さま』のモチーフにすごく興味を惹かれました。

劇場アニメ「君の膵臓をたべたい」本予告(公式)

※実写版・原作小説は未見での解釈です。
※核心のネタバレはないレビューですが未見の方はご注意ください


『君と出会う、ただそれだけのために、選択して生きてきた』


 自分はこの言葉が結構響きましたね。

 カッコつけすぎと違和感を感じる人もいるかもしれないけど、この言葉って『未来が過去を規定する』って考えを具体的に言ってる気がするんですよね。ちょうど最近みた『ミライの未来』でも同じテーマを感じていました。
 自分は『未来が過去を変える』という考え方が好きなんだけど、ひいじいちゃんが特攻で足を負傷したのも、その時点では不幸かもしれないけど、その後に不自由がキッカケで幸せになって『過去の意味』が変化したわけですよね。  『未来のミライ 感想:これは細田守の『夢十夜』なんだ』 - アニメとスピーカーと

 選択をした『過去のそのとき』には、二人の出会いを意識していたわけじゃない。当然です。予知能力があるわけじゃないですから。

 でも現在から過去を見ると、これまでの選択は『君と出会うため』に選択したと意味づけることができる。
何気ない選択が未来から見たときに意味が生まれる
© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

 これと似てるんだけどAppleのスティーブジョブズの有名な講演『Connecting The Dots』も連想するんですよね。(全文は日経記事より
将来を見据えて、点(出来事)と点(出来事)を結びつけることはできません。後で振り返って見たときにしか、点と点を結びつけることはできないのです。(You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards.) - 『スティーブ・ジョブズが信じたもの』- ドイツ語翻訳家 TOMOKO OKAMOTO より

 二人にとっても振り返ってみたとき、それぞれの選択が『君と出会うため』の線として結びついている。そういう意味だと受け取りました。

『星の王子さま』について


 ラストの『星の王子さま』のシーン。実は自分も読んだことなかったんですよね。主人公の事を全く笑えないですが。そういう人多そうですよね。

 何度かトライした気がするし、NHKの『100分で名著でも見たのですが、なんかぼんやりした記憶で・・・ちょっと掴みどころのない話ですよね。
一方的に主人公に近づく桜良の行動
星の王子さまのモチーフと重なって見える
© 住野よる/双葉社 © 君の膵臓をたべたい アニメフィルムパートナーズ

 桜良が小さな星で話すモノローグ。あれは『星の王子さま』をモチーフにしているのは明らかでしたが、いまいちこの作品との関わりがわからなかったんです。

 今回Wikipediaのあらすじを見て意味がようやくわかりました。物語後半のキツネと王子のエピソードが、この『キミスイ』のストーリーと重なるんですね。
別れの悲しさを前に「相手を悲しくさせるのなら、仲良くなんかならなければ良かった」と思う王子に、「黄色く色づく麦畑を見て、王子の美しい金髪を思い出せるなら、仲良くなった事は決して無駄なこと、悪い事ではなかった」とキツネは答える。別れ際、王子は「大切なものは、目に見えない」という「秘密」をキツネから教えられる。( 星の王子さま wikipedia  より)

 『星の王子さま』のテーマの一つに『別れの悲しみが苦しいなら出会わないほうが良かったのではないか?』というのがあるんですね。ある意味その回答になる物語ってことなんだなぁ。

 先日見た『フリクリ オルタナ』でも終わりのある人生を生きる意味というのを考えさせられたけど、思いがけず関連するテーマだなぁと思いました。

最後に


 実写版は未見なのですが、アニメ版は原作小説寄りの内容だそうですね。アニメでは『二人の対話』が中心の作品なので、小説版だと読みやすいストーリーかなという気もしました。

 そういう意味では、アレンジがあるらしい実写映画も見てみたいですね。実写版は未見なのですが、この作品は両方楽しめるように作られてるんだろうなぁ・・・って予感がしました。我慢せずに実写を先に見ても良かったかな(笑)

 実写版はあの女優さんの力がすごそうですよね。予告を観てて行きたかったんだけど、見逃しちゃって・・・ちょっとやせ我慢してました。今度レンタルで見てみたいですね。 

 それにしても、最近みた『ミライの未来』や『フリクリ オルタナ』と重なるテーマを感じたのはちょっと不思議な感じです。時代の空気がそれを求めているってことなのかな。

監督・脚本:牛嶋新一郎
原作:住野よる
制作:スタジオヴォルン

劇場アニメ『君の膵臓をたべたい』公式サイト
関連記事 劇場版『フリクリ オルタナ』前作未見の感想:絶望を抱えて希望を叫ぶ、オルタナティヴ・セカイ系の挑戦- アニメとスピーカーと‥
関連記事 未来のミライ 感想:これは細田守の『夢十夜』なんだ。 - アニメとスピーカーと‥

reade more... Résuméabuiyad

劇場版『フリクリ オルタナ』前作未見の感想:絶望を抱えて希望を叫ぶ、オルタナティヴ・セカイ系の挑戦

 劇場版「フリクリ オルタナ」を映画館で見てきました。前作(旧作)は全く知らないで見たけど全然大丈夫でしたね。

 賛否両論の評価みたいですが、率直に言うと結構良かったです。いい空気感だったな。直後の印象は、女子高生+セカイ系の『ほろ苦青春ストーリー』って感じ。感動で号泣とかじゃないけどなんとも言えない余韻を残した作品でした。
主人公のカナブンこと河本カナ
PV・MVより画像引用(当ブログの画像引用について
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 でもこの余韻ってなんだろう・・・って考えてみると、これがなかなか深い気がするんですよね。青春を描いているようで人生そのものを描いている気がしたし、典型的なセカイ系のようでその枠組みを否定しているような結末だと思いました。

 まさに『オルタナ』のタイトルにふさわしい挑戦的な作品だった気がします。

 自分は前作未見だったので余計な情報がないぶん素直に楽しめた気がしますね。映像もテレビ的とはいえスクリーンに映える美しさだったと思うし。

 ただ、劇場版と銘打っていますが非常に特殊な構成の作品で、そこが正直気になったかな。映画というより6話完結の中編アニメとして鑑賞したかったかも。

 前作ファンからみると見当違いな感想かもしれないけど、ほとんど前知識のない人間の解釈として読んでいただけると嬉しいです!

※後半よりネタバレありのレビューとなります。
※前作未見の考察のため独自の解釈です。違ってたらゴメンなさい。コメントで教えてくれると嬉しいです。

 
本PV映像(公式) 前半がオルタナで後半がプログレ。
PVの出来はすごくカッコイイ。


【大まかな目次】

前作見てなくて心配だったけど


 ところで前作のオリジナル『フリクリ』って恥ずかしながら全然知らなかったんですよ。有名な作品で熱烈なファンがたくさんいるんですね。ホントまだまだ知らないこといっぱいです。

 公開されたのが2000年頃だそうで、そのころは一番アニメから遠ざかってた時期だったんですよね。ましてオリジナルビデオ(OVA)作品は触れる機会なくって。

 でもたった6話構成なんですよね。それでこれほど熱烈なファンがいるなんてすごいな。どんな作品なんだろ?ってWikipediaを見たら『斬新な演出と構成で、ピロウズの音楽の使い方が秀逸。しかも難解な設定で・・・』って、具体的なことはほとんどわからないけど、確かにかなり興味を引く作品

 そんな前作を見ないで『続編』を楽しめるか心配ですよね。正直『スルーしようかな』って思ってたくらいで。でも公開直後のTwitterで『前作未見の人の方が楽しめるかも』みたいな感想を見たら『意外とイケるかも!』って俄然興味が湧いてきました。

前作未見でも全然OKだった


 結果的には前作未見でも全然OK。とりあえず意味不明なモヤモヤとかは残らなかったな。まあ、自分が気付いてないだけかもしれないけど。

 いろいろ謎は多いのですが、もともと謎の多い作品みたいなので『そういうもの』だと思えば特にひっかかる所はなかったんですよね。登場人物のほとんどは前作と変わってるみたいだし別作品だと思っても特に問題ない気がします。

 逆にオリジナルのファンは微妙な類似点が逆に気になってツライみたい。『前作を知らない人の方が楽しめるという説』って案外正しいかなって。自分は素直に入ることができました。
前作からのキャラ『ハル子』
彼女の描きかたがファンには特に抵抗が大きい
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 でも勘違いしてたのは、『オルタナ』と『プログレ』で一つの作品かと思ってたけど、実際はそれぞれ別のエピソードっぽいですね。オルタナはこれ自体で『一応完結』してるみたいですね。

劇場版だけど『TV一挙放送』状態なのがちょっと残念


 ストーリー自体は後で書きますが結構良かったんですよね。ただ構成がちょっと特殊ですよね。6話のエピソードをそのまま一挙上映してる形式なんですよね。

 先行公開したアメリカ版は6話+6話で普通に放映したんだそうですね。日本では劇場版なので、映画として再構成されたのかと思ったら、OP/EDカットで繋げただけ。まあ最後のエンディングはすごくいい出来でしたけど。

 どうしてこういう劇場版になったんだろう・・・というのがちょっと謎ですね。オリジナル版の6話OVA形式にこだわったんでしょうか。

 この作品って前作とか関係なく見た場合、TVで6話で放送したら割といい評判になるレベルだと思うんです。TVらしいテンポだし。話数によってはここでエンディングが入れば最高なのに!って場面がありました。

 劇場版だと余韻を楽しむ間もなくすぐ次のエピソードに行っちゃうんですよね。はっきり言ってこれはもったいないなぁって。せっかく劇場版を銘打つなら再構成して映画のテンポで見たかったかな。

 たとえばTV放映の前に劇場版を上映した『亜人』なんかは再構成してたけどすごく良かったんですよね。TV版にはないテンポ感で夢中になれました。まあ『オルタナ』がTV放送するかどうかは不明なんですけど。
関連記事  劇場版 亜人 1部「衝動」 感想:これは世界に通用する作品 - アニメとスピーカーと

この日常はいつか終わるという現実


 構成には文句はありますが、内容自体は結構好きでした。独特の空気感のある作品で、ドタバタ明るいんだけど渋みのある感じ・・・っていうのかな。

 この作品の空気感ってちょっと『宇宙よりも遠い場所』を連想しちゃうんですよね。空気感が似てるだけでテーマ的には全然違うんだけどね。独特の色合いがそう感じるのかな。

 『よりもい』が日常を打破していくのに対して、『オルタナ』は日常を死守していくストーリー。でも『この日々はいずれ終わる』という点が共通するのかも。
4人の青春に焦点を当てていくと思いきや・・・
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 『明日が昨日の寄せ集め』とか『毎日が毎日毎日続くわけじゃない』とか、いかにも17歳の青春時代って感じのセリフなんだけど、実は人生半ば過ぎたような自分にもすっごい刺さるセリフだったりするんですよね。

 人生自体が『つかの間の青春』みたいなものだな・・・って、最近すごい感じるんですよね。青春の日々が必ず終わるように、今の日常も必ず終わる。どんどん変わっていずれ終わる。 

 今の日常がいつまでも続かないことはわかりきった事実。この作品を見てた時、ずっとその事実を突きつけられている気がしました。


※次項よりネタバレありの考察となります。


このラストシーンはハッピーエンドなのか?


 この作品のラストシーンって、どう解釈しました?

 自己を克服して世界を救ったかに見えるカナブン。でも救ったのは自分の町だけ。親友だと思っていたペッツもいない。あそこは地球で無い事は確かだけど・・・火星?それとも全く別の星
ロボは結局謎だけアイロンを守る宇宙人の戦力と解釈
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 いずれにせよ特殊な力によって部分的でも『昨日を寄せ集めたような日常』が続く世界を取り戻したカナブン。でもこれってハッピーエンドなんですかね?

 あの世界だって『いつまでも続くはずが無い』事は明らかですよね。そして、おそらくだれもが『そんなことわかっている』世界。地球はどうやら平らに潰されて帰還不可能だし。

シニカルな結末・・・だけど、


 根本的な問題は何も解決されず、ペッツとの関係も解決されない。確実に終わる事だけは分かっている日常。それを大事にして生きる。

 夢とか希望とか・・・前半たっぷり使って語っていた恋愛や将来の夢があまりに空しく響きます。終わる世界で何を頑張るの?って。前半でヒジリーやモッさんの青春をたっぷり描いたのってその空虚さを感じるため?

 これって、すさまじくシニカルな結末じゃないですか?
前半で描かれる『恋や夢』はどう解釈すればいいのか
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 でもね・・・って思う。終わる事がわかってる人生。『明日が昨日の寄せ集め』みたいな日々でも・・・やっぱり生きたい。やっぱり夢や希望を語っていたいって思う。人間ってそういうものだよねって。

絶望的なほど当然のペッツの選択


 だからこそペッツも友達と別れてまで生きるのを選んだんですよね。ペッツはいわば正規の移住者として脱出して、カナブンたちはもう一つの方法で脱出した。この作品の『オルタナ』にはきっとこの意味も込められてる気がします。

 ペッツとカナブンの別れのシーン。あそこはすごく切なかったですね。本音をぶつけ合って傷ついたけど最後は友情を深めて和解する・・・というのは『儚い夢』だったって。この作品の核になるシーンのような気がします。

 つまらないくらい当たり前の選択。ペッツは生きることを選んだ。だから友達とお別れした。もちろん逡巡はあったんだと思うし、あんな親の元に居るのだって苦痛だったんだと思う。でもやっぱり選んだ。

 どうせ終わってしまう日常なのに、それでも生きることを選んでしまう。
カナブンに対する憎しみと友情
ペッツの相反する心が垣間見えたシーン
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 ハル子に嫌味を言われても淡々とヘアピンを交換して去っていくペッツ。カナブンに助けられたのにね。あの行為ってペッツの良心とも言えるけど、友達を裏切るという罪悪感を自分のなかで埋めあわせる行為のようにも感じる。

 ペッツにとってはギリギリの精神状態かもしれない。友達に黙って自分だけ生き残るだもん。でも現実はこんなもの。美しくもなんともない。仕方ない。絶望的なほど当然の選択

諦念と向き合いながらも、人は夢と希望を叫ぶ


 だから、もしかしてカナブンが転移した先でペッツと再会できるんじゃないか・・・って期待したんですよね。それならハッピーエンドだよね・・・って。

 でも、それは明示されなかった。もちろん可能性としてはゼロじゃない。同じ火星に転移したのかもしれないしね。

 でも自分はそうはならない気がする。この作品はそういう予定調和を拒否している気がするんですよね。なんでそう思うのか。

 現実とはこんなもの・・・という諦念と向き合いながらも人は夢と希望を語ってしまう。ファンタジーの形をとりながらこのテーマを叫ぶためにこの作品は作られた気がするんです。
一見ゆるふわな青春ストーリーだが
この作品はハッピーエンドを拒絶しているように見える
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 自分にはこの作品のキャッチコピー『走れ、できるだけテキトーに』がそのテーマを暗示しているように感じたんですよね。一見するとアンビバレントな言葉。

 決してスタッフの『テキトーに制作しま〜す』宣言じゃなくて『終わるのが決まっているのにどうして生きるのか』という、矛盾に満ちた人生に対する一つの回答のような気がしました。

この作品はオルタナティヴ・セカイ系


 この作品って最初の印象ではいかにもセカイ系の作品(wikipedia)だなぁ・・・って思ったんですよね。いまさらセカイ系とはちょっと陳腐だなぁと。でもよく考えるとちょっと違う気がするんですよね。

 自分は『フリクリ オルタナ』は典型的なセカイ系の形式に見えて、実は『セカイ系』を否定する『オルタナティヴ・セカイ系』なんじゃないかと感じたんですよね。

 救うのは『世界』ではなく『自分の街』。見える範囲の小さな世界。そして、主人公は誰かに依存するでもなく、誰かを犠牲にするでもなく、自らも犠牲にせずに救う。でも救ったからといって現実は変わらない
アイロンはフリクリに共通する舞台装置
本作は続編というより同じ舞台を利用した別作品ではないか
(c) 2018 Production I.G / 東宝

 この作品はエヴァに代表されるセカイ系アニメの形式をとりながら、そのアンチテーゼを提示したのかもしれないなって感じました。

 それは現実を生きろという意味かもしれないし、大きな世界より目に見える身近な世界を語れということかもしれない。このラストシーンの不思議な後味には、なにかそんな風に訴えるものを感じるんですよね。

 深読みが過ぎるよ!って言われればその通りなのですが(笑)前作未見だからこその自由さで想像を巡らせてみました。

最後に:一番の謎は・・・


 次作の『プログレ』は予告編が素晴らしいですよね。かなり見たくなる作品ですが、アメリカではプログレが先に放送されたそうですね。

 実際プログレッシヴ・ロックは70年代、オルタナティヴ・ロックは80年代という順番みたいだし。登場人物もオリジナルは小学生、プログレが中学生、オルタナが高校生ですもんね。

 なぜ日本では逆の公開なのか・・・構成の件といい、正直言って本編の謎以上に『謎』の多い作品ですが(笑)見に行けば何かわかるかな?

 プログレを見た後は傑作の誉れ高いオリジナル『フリクリ』も楽しみたいですね。

【訂正】辺田友美(ペッツ)をベッツと誤記していました。お詫びして訂正いたします。(2018/9/15)

監督:上村泰
総監督:本広克行
脚本:岩井秀人
制作:Production I.G/NUT/REVOROOT
フリクリ オルタナ・プログレ公式サイト

【参考にさせていただいたブログ】

reade more... Résuméabuiyad

ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』感想:そうそうたる実力派による親子向け短編集

 ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』を映画館で鑑賞してきました。3本の短編を54分で上映する珍しい企画。3人の監督が脚本も書いていて、全く違う方向性の作品を鑑賞できました。
ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』
予告編より(当ブログの画像引用について
© 2018 STUDIOPONOC

 明らかに親子向けの作品だと思いますが、アニメファン視点では米林宏昌監督の『カニーニとカニーノ』が印象的。自分は米林監督の作品はイマイチ合わなかったのですがこの作品は良かったです。米林作品の好きなところだけを凝縮してくれた感じかな(笑)

 個別の感想は後半に譲りますが、2作目の『サムライエッグ』はこの企画でなければ出会わないだろう作品。充実した構成で見ごたえありました。3作目の『透明人間』は渋くて暗い雰囲気が大人にも受け入れやすい作品。

 小さい子供のいる親子なら見終わった後に会話のきっかけになる作品ばかりだと思います。1時間で3本と軽く楽しめる量ですしね。アニメファン的にはベテランの作った短編として作風の違いを楽しむって感じかな。

 スタジオポノックの意欲的な企画。興行的に大丈夫なのか?と心配になりますが・・・他の映画のついでにちょっと見てみるってのも良いと思います。


『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』予告
 Studio Ponoc 公式配信

※予告編・公式あらすじ以上の重大なネタバレはないレビューですが未見の方はご注意ください。

そうそうたる実力派による短編アニメ


 実は予告を見たときは『カニの話』だけだと勘違いしてました。最初のポスターはカニだけだったしね。3本まとめた企画タイトルが『ちいさな英雄』という事で、一つの共通したキーワードになってるのかな?と思います。

 3人の監督が脚本も書いているので作家性も出てる気がします。米林監督は超有名ですが、百瀬義行 監督は古くから高畑勲作品に参加していた方で、山下明彦 監督はジブリ後半の作品、特に米林作品に多く参加されていた方。どちらも長年活躍してきた実力者という感じですね。

 あと何気に有名俳優さんが出演してるんですよね。全然チェックしてなかったのでビックリしました。尾野真千子オダギリジョー田中 泯などそうそうたる実力派俳優ばかり。演技も違和感ありませんでした。

※次項より個別レビューとなります。重大なネタバレはないつもりですが心配な方は鑑賞後にご覧下さい。

『カニーニとカニーノ』:米林作品の好きな部分だけをすくい取ったような作品


 実のところ米林監督の作品ってことごとく自分は合わなかったんですよね。ただ全部ダメなわけじゃなくて『メアリと魔女の花』の序盤なんてすごく好きでした。躍動感があって気持ちの良いシーンでした。

 そういう米林作品の好きな部分だけをすくい取ったような作品。自分のように米林監督の作品はちょっと苦手だなあ・・・という人でも意外と満足感が高いかもしれません。
カニーニとカニーノきょうだい
蟹の擬人化だと思ったが・・・
© 2018 STUDIOPONOC

 まさに短編という感じで長い物語のワンシーンのような作品。だからストーリーはそれほど深く掘り下げなくて、そこが良いのかもしれないですね。

 クライマックスの魚の描写などすごい緊張感で、スクリーンでみると迫力がありますね。魚をあそこまで怖く描けるとは。子供の反応が知りたくなります。

 でもタイトルが『カニーニとカニーノ』ってインパクトすごいですよね。正直笑ってしまいました。てっきりカニの擬人化かな?と思ったけど違うんでしょうか。本物のカニもでてきて『え?』って感じでした。

 まあ、小人みたいな存在なんですかね。その辺は本編で説明はないのですが特に理解に影響はなかったです。謎は多いですが話はシンプルで子供にも理解しやすいと思います。
関連記事 2017年に見たアニメ映画25本:感想総まとめ!-『メアリと魔女の花』- アニメとスピーカーと‥

『サムライエッグ』:短編劇場がなければ出会えなかった作品


 この作品は単体だったら絶対にお金払って見ないだろうな・・・と思うわけですが、じゃあ駄作かっていうと逆で素晴らしい作品なわけです。この作品こそ『ポノック短編劇場』という企画ならではの作品ですね。

 卵アレルギーの少年という重たそうな物語ですが、非常に軽やかに描かれていました。母親役の尾野真千子さんの演技と、ふわっとした絵のおかげでしょうかね。

この世界の片隅に』と同じような空気感というと言い過ぎかな。百瀬監督が多く参加していた高畑勲作品の影響を強く感じますね。
辛くて苦手な作品かな?と思ったけど
軽やかな展開で不快感を残さない。
© 2018 STUDIOPONOC

 少年はアレルギーが起こらなければ普通と全く変わらない活発な子供。わずかな摂取でも劇的な反応をしてしまう。このギャップがすごいんですね。食物アレルギーは知識としては知ってても、身近にいないとわからない事も多いわけで。

 激しい食物アレルギーを持っていても普段はこういう活発な子供だったりするんだな・・・とか、食べた瞬間に自覚するものなんだな・・・とか、あまり考えた事もなかった自分に気がつきました。当然ながら人によって状態は色々なんでしょうけどね。

 ただ説教くさい作品というわけじゃありませんね。構成的にも盛り上がりがあって短編とは思えない充実感なんですよね。単純に面白い!(そういう表現が適切かわかりませんけど)

 ただいかんせん図書館で上映されるような作品なので、お金を出して映画館で見ていると不思議な気分になってきます。

 まず自分では積極的に見ようとは思わない作品なので、こういう機会に乗せるというのは上手い戦略だと思います。とても心に残る作品でした。

 それにしても尾野真千子さんの関西弁って聞いていて気持ちが良いですね。自分は関東なので地域性とかは全然わかりませんけど。一聴して彼女だってわかるんだけど違和感ないです。

『透明人間』:渋い絵と躍動感!でも解釈がむずかしい


 この作品は年齢が上の子供でも楽しみやすい作品かな。絵的にはすごく渋くて良い雰囲気ですね。動きも素晴らしくて見ていてかなり期待が上がりました。

 特に浮遊感や疾走感は素晴らしいです。山下監督は『メアリと魔女の花』で作画監督補だったそうですが、メアリが箒で飛ぶシーンを担当してたの山下監督だったのかな・・・と思うほどですね。(本当のところは知りません)

 ただ、個人的には人物像がうまくつかめなくて戸惑いました。透明人間とは『透明人間のような存在感のない人』の比喩だと思うのですが・・・実際に空気のような軽さだったりして『実は幽霊なのかな?』とか思ったり。

 最後までこの人物の位置付けがうまく把握できなかったんですよね。そこを考察するのが面白いのかもしれないけど・・・ちょっと意図がつかめなくて
不安になるほど素晴らしい浮遊感
暗い絵も映画館だと渋い味わいで良い感じ
© 2018 STUDIOPONOC

 クライマックスも確かに盛りあがって凄いんだけど・・・どうも物足りなく感じてしまった。まあ子供にもわかりやすいシンプルな構成なのかな。短編だし変にひねるわけにはいかないですよね。

 この作品における『ちいさな英雄』って透明人間のことじゃなくて赤ちゃんのことなのかな?赤ちゃんが透明人間に生きる希望を与えたという事なんだろうか。

 下手に深読みせず素直に受け取るべきなんだろうけど・・・もしかして会社でも奥さんにも空気のように扱われているお父さんが『せめて自分の子供には認識されたい』という悲しい比喩だったりして・・・そう考えると泣けますね。

 まあ自分みたいな感想ブロガーも読んでもらえなければ空気みたいな存在だから共感するところはあるんですけど。それにしてもこの主人公はちょっと良い人過ぎますね。悲しいくらい。

 ある意味『みんなと同じでありたい』という心の叫びかもしれないけど、もう透明人間として割り切って自由に羽ばたいてほしいですね。自分はそういうストーリーを望んでいたのかもしれません。

 かなり期待感はあったのでちょっとハードル上げすぎたのかも。でも何気に長い感想を書いてるんだから、見た人に『考えさせる』という点では成功しているのかもしれませんね(笑)

 アニメーションとしての動きの面白さは抜群に良かったのですし、オダギリジョーさんや田中 泯さんの演技も良かったです。山下監督には今後も注目ですね。

最後に:幻の高畑勲監督作品を見たかった!


 3本とも方向性の違う作品でいいですね。お母さん、お父さん、子供、誰に取っても楽しめて、見終わった後に家族で色々と話ができる作品だと思います。

 ただ、実はこの作品は4本目として『高畑勲監督の短編平家物語』をお願いする予定だったそうです。(日テレの特番で脚本?が一瞬映っていました)高畑監督が亡くなって実現できなかったそうですが。
西村義明プロデューサー「高畑勲さんに1本頼むつもりだった」と短編劇場への思いを明かす -  cinemacafe

 確かに4本目に『短編 平家物語』が入る事で完成された感じがしますね。ぜひ見たかったなぁ・・・とはいえ、高畑監督に頼んでいたらスケージュール通りに公開できたか非常に心配ですが(笑)

 それは別にしてもスタジオポノックの意欲的な企画。興行的に大ヒットとはいかないでしょうが、映画館以外での上映会など広く需要はありそうですね。応援したいところです。

「カニーニとカニーノ」脚本・監督:米林宏昌
「サムライエッグ」脚本・監督:百瀬義行
「透明人間」脚本・監督:山下明彦
 プロデューサー:西村 義明
 企画制作:スタジオポノック

ポノック短編劇場 『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』
公式ホームページ

reade more... Résuméabuiyad

映画『ペンギン・ハイウェイ』感想:失われし者たちへ贈る感動の挽歌

 『ペンギンハイウェイ』を映画館で見てきました。素晴らしかったですね。118分と少し長めだけど退屈にさせず、難解なストーリーをわかりやすく表現していました。石田祐康監督、今回長編が初めてとは思えないです。

 爽やかな初秋の空気のようで清々しい気持ちになるんだけど、自分はすごい泣いてしまいました。決して安直に感動させる作品じゃないです。でも、今を生きる私たちには心から響く作品

  2018年の日本で公開するにふさわしい時代性を踏まえた傑作だと思います。

映画『ペンギン・ハイウェイ』 予告1(公式)
予告編ではこの1の出来が素晴らしいですね。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

【大まかな内容】

※中盤よりネタバレありのレビューとなります。
※原作未読での考察ですので独自の解釈です。違ってたらゴメンなさい。コメントで教えてくれると嬉しいです。

キャラの魅力が際立つ素晴らしい演技


 まず印象に残ったのはキャラクターの魅力ですよね。特に蒼井優さん演じる『お姉さん』が魅力的でしたね。予告見たときに蒼井優さんだって気付かなかったんですが、すごく個性的で味わいのある演技でした。
言われるまで蒼井優だと気づかなかった。
耳に残る声色と素晴らしい演技。
予告・主題歌トレーラーより画像引用(当ブログの画像引用について
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 俳優さんの声の演技って議論になることもあるけど、今回の蒼井優さんは大成功だと思うな。俳優本人の顔を思い浮かばせず、でも声優さんとも違うクセのある演技。それがあのお姉さんと本当にぴったりなんですよね。

 お父さん役の西島秀俊さん竹中直人さんの演技も良かったですが、どうしても本人の顔が浮かんじゃうんですよね。キャラの顔より演者本人の顔が強く感じてしまうのが俳優さんの難しいところ。それだけに今回の蒼井優さんのキャスティングは驚きました。

アオヤマ君は声優初挑戦?ビックリの好演!


 声優じゃないって意味では主人公アオヤマ君役の『北 香那』さん。彼女は今回声優初挑戦だって。ホントに?ってくらいうまい演技でしたね。

 男の子役がすごく合ってて声優さんだとばかり思っていました。演技か素かわかりませんが、独特の固い感じがアオヤマ君にピッタリでしたね。
潘めぐみさん演じるハマモトさん。
予告1の『そう言うと思った!』は最高ですね。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 そしてハマモトさん役の潘めぐみさん。ここにアニメ声優入れるのは素晴らしいキャスティング。潘さんとウチダ君役の釘宮さんなどで演技の脇を固める事で、ビシッと芯が通るというか、アニメ作品として違和感なく鑑賞できました。

次項よりネタバレありの考察となります。

ファンタジックなお話かと思ったら・・・


 自分は原作小説を未読なので、可愛いペンギンの印象からどうストーリーが展開するのか想像できなかったんですよね。

 最初はトトロみたいに、大人には見えないペンギンを探すファンタジックなお話かな?と思ったら、いきなり序盤からたくさん出てくるし、大人にも普通に見えてるのでビックリしました。
ウチダ君とアオヤマ君。
ファンタジーよりの作品かと思ったらSFミステリーよりで嬉しい誤算
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 一歩一歩と秘密を解明するような展開は単純に面白かったしSF展開も好みですごく良かったですね。この辺は多くの人が面白いと感じるんじゃないかな?

 ただ、水の玉の謎とか、SF展開の部分は少し難解に感じる人もいるかな?とは思います。とはいえ劇中で色々ヒントが提示されているんですよね。考察しやすいし親切な構成だなと感じました。

 自分が感動したのはこの『SF展開』が図らずも現代の日本を象徴している展開になっているという事なんですよね。

森の奥の水の玉はなんだったのか?


 森の奥の水の玉(海)は世界の果てと繋がった世界。SFで言うところのワームホールみたいなものだと思うんですよね。
世界の果てにあるもう一つの世界が森に出現した。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 アオヤマ君のお父さんが巾着袋で説明したように、時空がねじれることで世界の果てがアオヤマ君の町に出現した・・・って事ですよね。それは多分お姉さんが引っ越してきた頃と同時期なんじゃないかな。

 本当はその頃から町も少しずつ空間が歪んでいて、気付かないうちに小川が無限ループになっていたり、色々改変が進んで行ったんだろうなぁと思います。

この世の果ての失われた世界


 海の中の世界は、もう一つの地球。パラレルワールドとしての世界かもしれないし、別宇宙の地球かもしれない。そっくりだけど荒廃した世界

 いずれにせよ、この世界でお姉さんは死んでいるんだと思った。なぜならお姉さんが言った死を暗示させる『まだこの世界に未練があるんだ・・・』みたいな言葉。
お姉さんはいつ真実に気付いたのだろうか。
食事をとらずに姿を見せなかった頃だろうか。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 お姉さんはあの時、忘れていた真実を思い出したのかもしれない。自分の住む世界は壊れてしまって本当は自分はもう居ないはずの人間だって。でも、なぜだか気づいたらもう一つの世界にいる。

 お姉さんはこの町に元々いた人なのだろうか?時空の歪みで別世界の同一人物が重なってしまったとか。

 それともこの世界にはいない割り込んだ存在なんだろうか・・・どちらにせよお姉さんの未練が時空を変化させるキッカケになった気がしますね。

『ペンギンハイウェイ』の意味


 いずれにせよ、この町はある意味で『お姉さんの夢の中』のような世界になっているんですよね。苦しい時は怪物やコウモリが出てきて、気分のいい時は好きなペンギンが出てくる。すべてお姉さんが元になっていろんな歪みが生じている。

 それに気づいた時、お姉さんもアオヤマ君も同じ結論に達したんですよね。『お姉さん自身が消えなくてはならない』悲しい結論だけど・・・お姉さんは前向きだったんだと思う。だって、あらゆるモノがペンギンに変わっていくじゃないですか!
あらゆるモノがペンギンになり水浸しの街が残される
ペンギンは彼女にとってポジティブの象徴
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 これはお姉さんが自分の死を受け入れていく物語。『ペンギン・ハイウェイ』というタイトルは失われた人やモノたちが進んでいく通り道を意味してるんじゃないだろうか。

 すこし飛躍しすぎかもしれないけど・・・お姉さんって、もしかしたら別世界ではアオヤマ君のお嫁さんだったのかもしれないって思うんですよね。少しだけ時間がずれてしまったけど。

 だからこの町にリンクしてしまったのかな・・・そうだったらいいなって思いました。

津波や水害を連想させる演出


 それにしても、自分はこのクライマックスを見た時、どうしたって東日本大震災や、近年の水害を連想してしまったんですよね。水浸しの街、様々なものが消えて、不自然に浮かぶ住宅・・・。

 遊歩道のレンガや町の色々なものがペンギンになっていくシーンでは、失われたすべてのモノがペンギンに生まれ変わっていくように見えて涙が止まりませんでした。あらゆる未練が断ち切られいく・・・って。
不自然に浮かぶ自動車や住宅
そして水浸しの街をみて水害を連想せざるをえなかった
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 だから、原作小説が2010年の発表と知ってビックリすると同時に感動してしまいました。震災前なんですよね・・・当然原作では想定されていないはず。

 だとしたら、あえて監督が演出で表現したのではないか?と感じました。原作の枠を壊す事なく2018年の現在にふさわしい作品として再解釈したとしたら・・・もちろん自分の勝手な解釈かもしれませんけど。

 震災以降、『君の名は。』や『夜明け告げるルーのうた』など震災をイメージさせる作品はありましたが、『ペンギンハイウェイ』は直接的な表現は避けながらも強い時代性を感じさせる作品になっていると思います。

 もし監督が意図的にしているのなら素晴らしい演出だと思いました。

この作品における『おっぱい』の意味をマジメに考察してみる。


 この作品ってとにかく『おっぱい』という言葉が沢山出てきて、良くも悪くもそこが注目されていますね。確かに家族連れではドキッとするセリフですが・・・。

 でもいわゆる最近の深夜アニメとは違う文脈ですよね。なにしろほとんど『揺れない』し(笑)絵的には極めて抑制的に描かれています。(逆に最近のアニメは揺れすぎ!)
絵的には『おっぱい』はあまり強調されない。
しかし健康的な色っぽさが非常にうまく表現されている。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 それはいいとしても『おっぱい』は原作でもずいぶん使われているキーワードらしくて、それなら単なるお遊びHワードとは思えないんですよね。

 この言葉には何か意味があるはず・・・自分なりに一生懸命解釈してみました。

『おっぱい』は解明するべき謎でありメタファー。


 結論から言えば『おっぱい』とは解明するべき謎の象徴

 アオヤマ君にとって解明するべき課題は『この世界の謎』と『お姉さんの魅力』なわけですよね。『この世界』の鍵が『海(水玉)』なら、『お姉さんの魅力』の鍵は『おっぱい』ではないか?とアオヤマ君は推理した。

  • この世界』の謎を解く鍵は『』?
  • お姉さんの魅力』の謎を解く鍵は『おっぱい』?

 でも実際には、どちらも本質ではなかったんですよね・・・共通の鍵は『お姉さん自身』だった!
海は図らずもおっぱいの図と同じ形になる。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

 この世界の謎を解く鍵になるのは『お姉さんの存在』だった。同じく、お姉さんの魅力は決して『おっぱい』ではなく彼女という女性自身の魅力・・・それに気づいた時、アオヤマ君は本当の『乳離れ』ができたのかもしれませんね(笑)

 まあ乳離れは冗談としても『おっぱい』という言葉は『単なるHワード』ではなくて、なんらかのメタファー(暗喩)として理解できる気がしますよね。

石田祐康 監督『フミコの告白』との共通点


 今回監督の石田祐康さんって2009年の大学在学中に発表した「フミコの告白」という短編アニメが話題になったんですよね。自分も当時これを見てビックリした覚えがあります。


 改めて見直したのですが、無限ループで再び恋人と再会するっていうエピソードが、図らずも『ペンギンハイウェイ』を連想するものでちょっと感動しちゃいましたね。

 他に『陽なたのアオシグレ』という短編映画も制作してるんですね。2013年なので気づきませんでした。この予告編がホント素晴らしくて涙出てきましたよ。方向性は違いますが楽曲との合わせ方とか新海監督に比肩するセンスの良さを感じますね。


 今回は長編映画としては初監督。それで118分はすごいなぁと思いますが、得意なショートフィルム的な演出はあえて抑えて、ゆったりとした構成にしたのがすごいですよね。派手なシーンが多すぎると疲れちゃいますからね。

 確かにもう少し短いほうが?とか思わなくもないですが、退屈ではなかったし、なにより難解な物語を丁寧に描くために必要だったと思います。

さよなら・・・でもまた会えるはず。


 この作品、クライマックスで涙が出たと書きましたが、エンディングでも涙が止まらなかったんですよね。宇多田ヒカルさんの『Good Night』が素晴らしくて。溜まっていた感情が一気に溢れてしまう感じでした。

『ペンギン・ハイウェイ』 主題歌トレーラー(公式)

 楽曲タイトルの『Good Night』は『おやすみ』や『さよなら』の意味だけど、決して永遠の別れじゃない。また会う事が前提の挨拶・・・。

 この映画のラストシーン近く、アオヤマ君の『僕は会いに行きます』という言葉。そう、きっと会いに行ける。だって時空を超える事ができたのなら、お姉さんの生きている時空にだって行く事ができるはず。

 ハッピーエンドとは言えないのかもしれない・・・でも素晴らしい気持ちで映画館を後にできる作品。娯楽性と社会性が両立した傑作だと思います!

監督:石田祐康
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクターデザイン:新井陽次郎/色彩設計:広瀬いづみ
制作:スタジオコロリド

映画『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト

追記:小説『ソラリス』の影響について


 Twitterで『てぎ @tegit』さんより『ペンギン・ハイウェイ』は、スタニスワフ・レムのSF小説『ソラリス』(1961年)の影響があると聞いて驚きました。

 原作者の森見登美彦氏がブログで次のように書いていました。
 なお『ペンギン・ハイウェイ』は、スタニスワフ・レムの『ソラリス』を読んだ感動から生まれ落ちた作品であって、『ソラリス』がなければ『ペンギン・ハイウェイ』はなかった。 - 森見登美彦日誌より

 小説『ソラリス』(映画名 惑星ソラリス)は最近NHKの100分で名著』でも紹介されていて記憶に新しいのですが、謎が多く非常に深読みができる作品です。

 キーワードとなるモチーフや、それらがメタファーとなる事など『ペンギン・ハイウェイ』との共通点を感じます。例えば謎めいた『』や『人間ではない人物』そして『怪物』など・・・。

 もちろん全く違う物語なので(自分も言われるまで気づかなかった程ですから)強引にあてはめる事は出来ないのですが、少なくとも『ペンギン・ハイウェイ』という作品は非常に深読みができる物語である事は間違いない!と確信しました。

 むしろ今回の自分の解釈なんてまだ甘いんじゃないかって(笑)勇気付けられると同時に、すごく想像が広がって興奮しましたね。

 この原作のもつ懐の深さを十二分に引き出した石田祐康監督や脚本の上田誠さん・・・この作品はスゴイわけだ。子供から大人まで現代の日本人にとって見る価値のある作品だと思います。

reade more... Résuméabuiyad

リズと青い鳥 感想:7回鑑賞してたどり着いた絶景

リズと青い鳥』を映画館で7回目の鑑賞をしてきました。

 本当に本当に、素晴らしい作品でしたね。2018年前半でダントツで大好きな作品。たぶん2018年ベストの作品になりそうです。
『リズと青い鳥』ロングPV・MVより画像引用
当ブログの画像引用について
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 そんな自分もなんと初見では『まあ、悪くないけど・・・』ぐらいの感想だったんですよね(笑)今となっては信じられませんが。それだけ情報量が多くて受け止めきれない作品でした。

 2度目の鑑賞でそのすごさに衝撃を受け、4回5回で飽きるどころか心地よさすら感じてきます。派手な盛り上がりのない静かな作品なのにね。どうしてここまで心を掴むんでしょうか。

 それを言葉にしようとするんですが、言葉にしようとすると消えてしまうんですよ。そんな『はかない幻のような感覚』を表現した作品。

 初日に見てから3ヶ月あまり・・・ようやく自分のなかでこの作品の感想を書き上げる事ができました。この作品の素晴らしさはすでに多くの方が書いていますよね。

 ただ、自分が7回鑑賞してやっとたどり着いた解釈は書いておきたかった。この構造に気がついて、見える景色に本当に感動したからです。

 とっくに周知の解釈かもしれないし、正しいかもわかりませんが、自分の感情の軌跡と共によかったら読んでください。

ネタバレを含むレビューとなります。個人的な考察ですのでご了承ください。

初見では違和感・・・でも涙が?


 楽しみに待っていた公開日。話題の原作小説はあえて未読で、ネタバレ情報は一切入れずに初日に鑑賞したのですが・・・。

 初見の感想は正直微妙な感じでした。今では我ながら苦笑してしまうのですが・・・童話シーン、日常シーン、平板な構成、キャラデザ、ブツ切れの2段エンディング・・・などなどやたらと違和感を感じたんですよね。
もちろん初見でも良いところはたくさんあった。
特にみぞれの瞳の芝居が素晴らしい。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 それにもかかわらず溢れてくる涙・・・なんで?って感じの涙。これって『聲の形』と同じなんですよね。何かを感じるのに受け止められてない感じ。情報量が多すぎて処理できていないんです。

 聲の形よりもさらに抑揚の少ない構成なので一層不思議な感じでした。前作総集編『届けたいメロディ』は非常にわかりやすく感動的な盛り上がりのある作品だったので、この静かさに戸惑ったんですね。
関連記事 劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~ 感想:2期の総集編?これは新作と合わせた加筆完全版だ! - アニメとスピーカーと‥

景色が違う!2度目に見た衝撃


  それが2度目の鑑賞では全然見える景色が違うんですよね。初見では冗長に感じた童話シーンがすごく意味を持って見える。何だこれ?ってくらい印象が変わりました。

 それでも何だかよくわからないタイミングで涙が出てくる。明確な盛り上がりで感動させるという構成じゃなくて、気づかないうちに感情のプールがいっぱいになっている感じ。だからちょっとの揺れで涙が溢れてしまう。
初見では『長くて退屈』にすら感じていた童話シーン
声の演技も初見とは全く評価が変わった。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 山田監督の作品は『初見の印象はアテにならない』って自覚はしていたんですけどね。まさかここまでとは。実際2度目を見るまで『今回ばかりは自分にはちょっと合わない作品かなぁ・・・』なんて本気で心配していたんです(笑)

 さすがにここまで鮮やかに評価を変えさせてくれると、ほっとするやら感心するやら妙な気分になりました。でもこういう作品はジワジワ心を侵食して虜にされてしまうんですよね。

緊張感が心地よさに入れ替わり・・・


 そして3度4度目になると、これまでのピンと張り詰めたような印象から、もっと浸っていたいような心地よさに変わってきました。

 最初は二人の劇的なまでの緊張感こそがこの作品の魅力だと感じてました。フルートパートの会話シーンや、ダブルリードの会のエピソードのような、いわゆる『日常パート』は緊張を和らげる『箸休め』だと。初見の頃はちょっと邪魔だなと感じてたくらいでしたね。

 でもだんだん、その『日常パートの魅力』に惹かれていったんですよね。
フルートパートの会話劇は大好きで本当に癖になった。
特に『キミ持ってないよね?ワンピ』のシーンは最高
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 演劇部を舞台にした日本映画『櫻の園』が好きだったので、こういう何気ない会話劇がすごく魅力的でした。だからこの頃は『のぞみぞ2人の物語』と『日常の会話劇』の二つがこの作品の魅力だと感じてました。

 でもね、なんか違和感あったんですよね。この日常パートは果たして緊張感を和らげるための『箸休め』なのかな?なにか特別な意味があるような・・・。

日常シーンの重要さに気がつく!


 でも6回目を見終わってから気づいたんです。希美がフルートパートで楽しく話をしている時の、ちょっとだけ無理してるような違和感

 笑い方とかセリフとか・・・なんかイマイチ馴染みきってないというか、装っているというか。なんか妙な緊張感が混ざっている気がする。
すごく和むシーンなのにわずかに緊張感を感じる。
それは希美が無意識に空気を読んでいるのが伝わるから?
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 それに気づいた時・・・『希美とフルートパート』そして『みぞれとダブルリードの会』はそれぞれセットになって希美とみぞれの人間性を対比させているんだと気付きました。

  • 希美:空気を読んで無意識に演じている
        →本当の所で心を通わせていない。
  • みぞれ:空気を読まずにシャットアウト
        →でも徐々に心が通っていく。

 日常シーンは二人のシーンの重要な伏線なんだって、両方を一体として理解した時・・・この作品の深さに驚愕したのです。

あるべき自分を演じている希美


 希美はフルートパートに溶け込んでいるように見えて、実のところ本当には心を通わせていない。どこかみんなから『あるべき姿』を演じている。そんな風に見えるんですよね。

 憧れられる存在、頼られる存在として、そのイメージ通りの存在であろうと、無意識かもしれないけど頑張ってしまう。きっと集団退部の時もそんな感じだったんだろうな。

 本当のところはフルートパートのあの『ノリ』にはついていけないのに、うまく乗ってしまう器用さ。途中復帰なのにすぐに馴染めてしまうコミュ力の高さですよね。
希美の笑顔は嘘ではないんだろうけど
独特の『演じている感じ』がする。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 でも、ところどころで見え隠れする、無理に笑っている感じ、演じている感じの違和感。表情やセリフからなんか滲み出てくるんですよね。

 それがフルートの日常パートにおける、和みと緊張感の入り混じったような不思議な感覚の原因か!そう思った時・・・すげぇ・・・と一人感動してしまいました。

本当の意味で心通わせるみぞれ


 それに対してみぞれは、希美と正反対に後輩の誘いをシャットアウトして、何と思われようと気にしない。一見すると依存性が高くて弱い存在のようで、実はすごく頑なで強い

 でもみぞれは徐々に後輩たちに心を開いていくんですよね。希美が『求められる自分』を演じるばかりに表面的な人間関係になっているのに対して、みぞれは自分に正直に生きることで逆に心を通わせられる人間関係を作っていく

 そんなみぞれを知ったときの希美の心中はどうだったろう。プールの写真にもフルートパートの人は写ってないじゃないですか!つまり希美が誘いたい友達はフルートにはいない。
オーボエのような声の剣崎梨々花。
最初は違和感あるキャラだったけど慣れると最高に魅力的。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 後に希美が『みぞれが思うような人間じゃないんだよ』とか『むしろ軽蔑されるべき』と自嘲するシーン。この伏線を踏まえるとさらに厚みを感じませんか?

 そして『ずるいよ』ってセリフ。楽器の才能だけじゃなくて人間関係もだと考えると・・・理不尽に感じる希美の気持ちがすごくわかる気がします。

 箸休めだと思っていた『日常パート』が実は、みぞれと希美の人間性をこれほどまでに見事に表現していたとは・・・しかもこれほどまでに魅力的にね。本当に驚きました。

二人に寄り添う夏紀の立ち位置


 そして、その二人の両方をサポートするのが夏紀なんですよね。

 みぞれへのサポートは本当にカッコイイですよね。フラットな関係性で押し付けがましくない優しさ。正論で済ませない。人の気持ちに気がついて寄り添う。

 みぞれだけじゃなくて希美も夏紀に相談してますよね。夏紀への相談しやすさって、優しさもあるけどアウトサイダー的な立ち位置ってのもあると思います。
クールなようで人の気持ちを汲む事ができる夏紀
集団退部や選抜落選など自分の無力さを冷静に受け止められる人
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 体面を気にする希美も夏紀の前なら素を出せる。敵でも味方でもない。味方ですらガッカリされたくないので弱音は吐けないのが希美の性格ですよね。

 夏紀なら気を使わなくて良いんだろうな。でも夏紀だって『我が道を行く』という性格なわけでなく、人の気持ちに敏感だからこそ無意識にそういう立ち位置になった気がしますね。
 
 夏紀の魅力って自分の無力さを知ってるからこその優しさだと思うんですよね。上から目線でアドバイスせず寄り添う事ができる人。なんかそんな存在でありたいなぁと思います。

 ・・・と、ここまでが自分の解釈でした。初見ではバラバラに見えたシーンがどれも無駄なく働いている。でも決して難しい作品ではなくて、面白くて近づくとどんどん見える感じ。すごいよね。何重にも感動できる作品でした!

自分の選ぶ名シーン4選!


 最後に特に感動した名シーン!

 しかしここまで名シーンが多い作品ってのもすごいよね。どのシーンが好きかって言われてもとても選びきれない。考え始めると何もかもが素晴らしいシーンの連続です。

 そんな中で特に印象深いシーンをあえて4つ選びました。
 
  • 言葉でなく演奏で感動させるオーボエソロ!
このシーンは何度見てもすごいなぁって思います。セリフなしでここまで表現できるものか?と驚愕のシーンでした。
気がつくとセリフが一切ないのにはっきりと物語性を感じる。
これまで感じた事のない体験だった。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 劇伴としてクライマックスを演出するのではなくて、演奏自体をセリフのように使うという離れ業。曲の素晴らしさもありますがその演出力に圧倒されました。

  • フルートの光のシーン
本当に大好きすぎるシーンです。みぞれのつかの間の幸せな笑顔。一瞬でフッと消えてしまう幻のような瞬間。この作品を象徴するようなシーンだと思います。
このシーンはアニメオリジナルらしいですね。
本当に奇跡のような素晴らしいエピソード。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 見ている方も幸せと切なさでどうにかなりそうになりますね。それにしても、この部分の劇伴の素晴らしさ!ピアノのメロディーがみぞれの心と見事にシンクロして涙が出てきます。

  • 夕焼けにたたずむ希美
モノローグから突然転換する希美が一人で夕焼けを眺めるシーン。あの緊張感からの流れでパッと転換する構成が見事。空気が一気に変わります。

 理科室から廊下を歩く希美の一連のシーンはどれも素晴らしいカットの連続ですよね。みぞれを誘う回想シーンにも感動しました。冒頭のみぞれ視点の回想シーンと対になっていているんですよね。
ハグからの一連のシーンは名シーンだらけ。
でもこのカットの入れかたは特に秀逸だと思う。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 このシーンは『錬金術師の隠れ家』の、びおれん(@phanomenologist )さんの考察がすごく好きです。本作で特徴的な『色彩表現』の解釈が素晴らしいと思いました。
『希美とみぞれを表すところの赤と青が、ここで初めて、紫がかった空と街並みとして混じり合う。希美とみぞれが互いの立場の逆転を自覚するという仕方で、両者は混じり合っている。』
傘木希美という「作品」ー『リズと青い鳥』を巡って(みぞれとは別の視点から考察する) - 『錬金術師の隠れ家』より引用

  • ラストシーンのハッピーアイスクリーム
そして、あのラストシーン。『ハッピーアイスクリーム』からのみぞれの笑顔。数あるシーンのなかでも、このシーンがあるからまた見たくなっちゃうシーン

 もう最高に幸せなみぞれの笑顔。見ている自分もこの一瞬が永遠に続いてほしい・・・って願ってしまいます。お願いだからまだ終わらないで!って(笑)
劇中で初めて学校を出るシーン。
鳥かごから出るという解釈も素敵ですよね。
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 でも『フルートの光のシーン』と同じく二人は噛み合っていないんだよね。また少しズレてる。その切なさも含めて猛烈に感動します。

 ここも劇伴が神がかってるんですよね。最後ピアノのトーンが変わるところで必ず涙が溢れてしまいます。

 一見すると静かでなんでもないシーン。でもすごくいろんな思いが織り込まれているんですよね。あのラストシーンの素晴らしさは見事としか言いようがありません。

通常のキャラデに戻れるか心配(笑)


 あと、もう一つ言及したいのは西屋さんのキャラクターデザイン。発表された時は違和感が強かったんですよね。こんな生気のないキャラで・・・TV版の希美が好きだったので心配してました。

 でも今や、元のデザインに戻れるか心配なほど。ホント良いですよね。

 同じ青春でも、TV版が『焼きつくような熱い青春』なら、リズは『消えてしまうような儚い青春』を表現している気がするんですよね。確かにTV版の色彩やデザインではリズを表現しきれない
シンプルだけどすごくリアル感のあるデザイン。
優子のリボンもリアルな大きさになったのは残念(笑)
Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

 キラキラ輝くTV版に比べて、カワイイ盛りを排した表現。どのキャラクターも、人間の『生々しさ』がちょっとだけ混じった気がします。

 特に麗奈ですね。TVシリーズではキラキラした彼女ですが、本来はああいう印象だろうなって。冷たく厳しい。まさにイメージ通りでした。

 あれならデカリボン先輩も食ってかかるはずだよなぁ・・・ってすごい納得してしまった(笑)リズではあんまりデカリボンじゃなくなりましたが。

 希美もTV版では本当に可愛いキャラでしたが、リズでは微妙に違和感のある感じ。ほんの少しの『嫌な感じ』がうまく表現されていましたね。

おわりに:山田監督の解釈を楽しめてよかった


 山田監督の作品って情報量が多くて一度ではちゃんと受け止められないんですよね。『たまこラブストーリー』も『聲の形』も初見ではちゃんと評価できませんでした。

 だから、もし『初見でイマイチ・・・』って感じた人がいたらぜひもう一度見ることを勧めたいですね。

 特に今回は原作未読でしたが結果的に良かったな。前作の『聲の形』でもそうでしたが、自分は山田監督&吉田玲子さんの作品解釈がすごく好きなんだと思います。

 原作をリスペクトしているのは当然なんですが、セリフに限らず、表現方法も含めて、アニメでしか表現できない方法での再解釈。そこに独特の『優しさ』がにじみ出ていてね。それが素晴らしい。

 だから原作に影響されず、まずは純粋に山田監督の解釈を楽しめてよかったなって。心から驚き感動しました。本当に素晴らしい作品でした!

『リズと青い鳥』 公式サイト
http://liz-bluebird.com
関連記事 映画 聲の形 の感想 前編:全てにピントが合った時の衝撃に言葉が出なかった - アニメとスピーカーと‥

追伸:『鎧・・・じゃなくて剣崎』の意味


 ちなみに剣崎梨々花ちゃんが、自分の名前を間違えて『鎧・・・じゃなくて剣崎』っていうのは鎧塚先輩の相談をしようと頭一杯でつい出ちゃったって感じですよね。

 新山先生が同じように『鎧・・・じゃなくて剣崎さん』って間違えるのは、同じ理由かもしれないけど、自分は『鎧』と『剣』が同じイメージで覚えてて、うっかり入れ違っちゃったって感じかなぁと思いました。

 ここなんか面白くて、梨々花ちゃんのキャラ付けとしても秀逸ですよね。原作だとある場面なんですかね?2〜3回目くらいまでどういう意味なんだろうと結構考えてました。

reade more... Résuméabuiyad

未来のミライ 感想:これは細田守の『夢十夜』なんだ。

未来のミライ』を映画館で見てきました。

 すごいなぁこれは・・・とんでもない作品だと思いました。『ほんわかハートフル作品』には違いないのですが、実のところものすごい挑戦的な作品賛否両論あるでしょうけどね。

 でも、この作品がハートフルなだけの薄っぺらい映画であるはずがない!自分はこの作品がすごく複雑で重厚だと思うし、今だからこそ細田監督が描くべき作品だと感じました。

 実を言うと自分は細田監督の家族礼賛的な描写が結構苦手なんですよね。『時をかける少女』以外はファンとは言えないのですが・・・この作品はそんな自分も絶賛するしかない。複雑さと軽やかさを両立させた傑作だと思います。

山下達郎「ミライのテーマ(Short Version)
初見の状態でも感動したけど鑑賞後に聴くと涙出てきますね(笑)
予告編よりも素晴らしいMVです。

ネタバレを含むレビューとなりますのでご注意ください。個人的な評価です。

こんな夢を見た・・・細田守版の『夢十夜』ではないか?


 この作品の批判でよく見るのは『意味不明なストーリー』と『作品としての浅さ』じゃないでしょうか?確かに表面的にはそう感じるのもわかります。

 自分も中盤までは『あ〜はいはい家族礼賛ね』とちょっと斜に構えていたのも事実です(笑)でも後半に未来のくんちゃんと出会いファンタジーの東京駅を見た時に気がつきました。
見事すぎるファンタジー東京駅
直前の田舎駅からの構成は素晴らしいと思う。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)
当ブログの画像引用について

 あ、これは細田守版の『夢十夜』だったんだ。夏目漱石の『こんな夢を見た』・・・で始まる不思議な物語。そうだとすれば『つじつま』とか『盛り上がり』とか、この作品の異様な部分は納得できると思うんですよね。

 犬のゆっこ、未来ちゃん、おかあさん、ひいじいちゃん、そして、未来のくんちゃんとファンタジーの東京駅へ・・・小さな物語をつないでいく不思議な構成が、夏目漱石の『夢十夜』を強く連想させました。

『長い夢』から始まるテーマ曲の意味


 そう思ってみると冒頭のテーマ曲。コレ意味深じゃないですか?

 いきなり山下達郎の楽曲から始まる素晴らしいオープニングで、まるでエンディングみたいな構成が素晴らしくて感動しちゃったんですが・・・最初の歌詞の一節。
長い夢から 醒めたばかりの 瞳が僕を見つめてる
(作詞:山下達郎/ミライのテーマより)

 この歌詞はもちろん『未来ちゃんが生まれたお父さんの視点』なんですけどね。でも『こんな夢を見た』という夏目漱石の書き出しと重なってしまうんですよ。

 で、問題は誰の夢なのか・・・ってことなんですが。

未来ちゃんがこんな夢を見たんじゃないか・・・という細田監督の夢


 この作品を夢想している一番大きな視点は『細田監督』なんですが、物語の中で夢を見ているのは『未来のミライちゃん』のような気がするんですよね。

 ちょっと言葉で表現しにくいんですが・・・自分には

 細田監督が『未来のミライちゃんがこんな夢をみたんじゃないかな?』と夢見た世界を描いた気がしてならないです。
お父さんが疲れて居眠りするシーンがあるけど
この作品自体が『夢』であることのメタファーに見えた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 その夢の世界をあえて未来ちゃん視点ではなく『くんちゃん視点』で構成している・・・強引な解釈かもしれないけど、そうだったら面白いなぁって。

キレイに閉じられる物語の入れ子


 だって、『お母さん』や『ひいじいちゃん』のエピソードはあるのに、『お父さん』のエピソードは間接的にしか出てこないのはなぜか?

 これがあくまで父によって作られた夢であるからじゃないかな。

 そして『ミライの未来ちゃん』と『赤ちゃんの未来ちゃん』は同時に存在できないのに、『子供のくんちゃん』と『未来のくんちゃん』は会話できる不思議。

 これって未来ちゃんの夢の主体だからでは?
赤ちゃん時代の未来ちゃん
なぜ彼女は同時存在を認められていないのか?
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 そして最後に、クライマックスの後に兄弟が朝食を食べて学校に行くシーン。これは『未来ちゃんの夢』が終わった『目覚めの朝』を意味している気がします。

 そして語り手である子供の『くんちゃん』は家族に戻り、夢の作り手である『お父さん』がお母さんと語るシーンで映画は終わる・・・。

 ひっくり返されたおもちゃ箱のような世界がキレイに閉じられていくような、こんなに美しい構成・・・と感じたら感動してしまいました。

最初は薄っぺらい話だと思っんですが


 実のところ自分は中盤まで、薄っぺらい話だなぁ・・・とちょっと呆れ気味でした(笑)でも途中で気づいたんですよね。

 それは、未来ちゃんがタイムリープする理由。女子高生(中学?)のくせに『婚期に遅れたくない』というしょーもない理由なこと。は・・・SFじゃないの?
しょーもない理由でタイムリープするのは
『時かけ』の真琴を強くイメージさせる。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 でも『そうは言っても後半で実はスゴイ理由があるんでしょ?誰か死ぬの?おかあさん?おとうさん?』なんて・・・期待してたら(ゲス笑)、なんの悲劇も起こらずに静かに終わる物語

 おいおい、大スペクタクルのSF作品のように思わせておいて、実のところSFでもなんでもなくて、整合性の全くない破綻したストーリー?

 いやいや・・・な、わけないよね?あまりにも露骨な破綻ぶりで逆に気がつけました(笑)

破綻した脚本なはずがない!


 これは、生まれたばかりの我が子の成長を見た細田監督が、この子はどんな夢を見るんだろう・・・と夢想して作った作品なんだと。

 言葉もわからない未来ちゃんが『雛人形の話』を聞いて将来気にしちゃうんじゃないかな・・・とか、君たちはこんな奇跡みたいな繋がりの末にいるんだよ・・・とか、父の視点から子供達に伝えたいことが詰まった作品。
過去の色彩が独特なのは
アルバムの写真の記憶が投影されているのだと思う。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 この『夢の中の夢』のような構造を感じた時、薄っぺらくて内容のない物語から、すごく複雑で挑戦的な物語に変わりました。

 自分のこの解釈が正解かどうかなんてわかりません。初見での感想ですしね。でも、これまでヒット作を作ってきた細田監督がわざわざ破綻したストーリーを発表するわけもないわけで。

 これまでの作品を踏まえた上で『さらに抽象度の高い作品』として挑戦したんじゃないかなと。

現代だからこそふさわしい作品


 『サマーウォーズ』で大家族を描き、『おおかみこどもの雨と雪』などで社会の片隅に光をあてる作品も作ってきた細田監督が、どうしてこの作品を作ったか。

 正直この家族は恵まれていますよね。両親が共に立派な職業を持ち祖父母の応援もある。もっと描くべき社会問題があるじゃないか・・・と。

 でも、ここで両親に問題があったり、死んだり、失業したり・・・では、この作品のテーマはボヤけると思うんですよね。
おそらく自宅も親の援助があったのかな?
でも子育てに親が協力するのは本来当たり前の姿。
核家族化でそのことが忘れられてきた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 社会で苦しんでいる人たち、日の当たらない人たち・・・そういう部分に焦点を当てるのも映画の力ですが、いま彼が表現するべきことはそれじゃなかった。

 今の日本・・・というより少子化の進む国の人間だからこそ、子を持つ喜び、育てる喜びを伝える必要があって、恋愛をポジティブに描く作品が必要なのと同様に、子を持つことをポジティブに描く作品が必要とされていると思います。

 そこには余計な事件は必要ない。子供が生まれたという以上の事件なんてない。伝えたいのは『子育ての大変さ』じゃない。『子が生まれたという喜び』を伝えたかったんだと思います。

 この当たり前すぎる自明なテーマが当たり前でなくなりつつある社会・・・これこそが日本が抱える大きな社会問題であり、いまこそ彼が作るべき作品だったのだと思います。

自分にもあったかもしれない未来


 正直言うとね、子供がいない自分にはすこし『痛い』です。繋げなかった苦しさってやっぱりあるんだよね。各方面に申し訳ないというか。

 劇中で『ちょっとした理由で違う未来があったかも』というシーンがあったけど、自分はもしかしたら、その『違う未来』を生きているのかもしれないって・・・思うんですよね。

あったかもしれない未来』を想像したとき、生まれてこなかった我が子に『ごめんね』って気持ちになる。(別に死産とかそういうことじゃなくてね)

 でも何が良いかなんてわからないし、結局選ばれた未来を生きるしかないよね。

 自分は『未来が過去を変える』という考え方が好きなんだけど、ひいじいちゃんが特攻で足を負傷したのも、その時点では不幸かもしれないけど、その後に不自由がキッカケで幸せになって『過去の意味』が変化したわけですよね。
祖父は先祖とのつながりを表現すると共に
未来が過去を変えることへのメタファーに感じた。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 未来ちゃんの手のアザだって・・・祖父母は心配するけど、あのおかげでくんちゃんにすぐ気付いてもらえたし、未来ちゃんの幸せのキッカケになるかもしれない。

 なにが幸せかなんてわからない。この作品にはそんなメタファーも込められていると思うんですよね。

最後に


 まあ、ずいぶん絶賛しましたが全然違ってたらごめんなさい(笑)こういう解釈もあるよねってことで。

 それに細田作品で一番好きなのは?と言われればやっぱり『時かけ』かな。これは自分の好きなアニメ映画のトップ5に入る作品ですね。今でも。エンターテイメントとして非常に優れていますよね。

 でも複雑さとか構成の面白さという点では『未来のミライ』は負けてないどころか最高だと思います。

くんちゃんの声は女の子の声に聞こえる違和感。
でもこれも未来の見た夢だからと解釈できるかも。
(未来のミライ より/©2018 スタジオ地図)

 冒頭に『エンディングみたいなオープニングだった』と書いたけど、見終わった後はやっぱり、あのオープニングはエンディングと繋がっている気がしますね。曲こそ違えどもほどんと同じ構成だし、2度目を見たら冒頭でいきなり涙が出る気がします(笑)

 実は全く期待してない作品だったのですが・・・いい意味で裏切られました。やっぱりさすがですね細田監督は。
 
『ミライの未来』公式サイト:http://mirai-no-mirai.jp

reade more... Résuméabuiyad