すごいなぁこれは・・・とんでもない作品だと思いました。『ほんわかハートフル作品』には違いないのですが、実のところものすごい挑戦的な作品。賛否両論あるでしょうけどね。
でも、この作品がハートフルなだけの薄っぺらい映画であるはずがない!自分はこの作品がすごく複雑で重厚だと思うし、今だからこそ細田監督が描くべき作品だと感じました。
実を言うと自分は細田監督の家族礼賛的な描写が結構苦手なんですよね。『時をかける少女』以外はファンとは言えないのですが・・・この作品はそんな自分も絶賛するしかない。複雑さと軽やかさを両立させた傑作だと思います。
山下達郎「ミライのテーマ(Short Version)
初見の状態でも感動したけど鑑賞後に聴くと涙出てきますね(笑)
予告編よりも素晴らしいMVです。
予告編よりも素晴らしいMVです。
※ネタバレを含むレビューとなりますのでご注意ください。個人的な評価です。
こんな夢を見た・・・細田守版の『夢十夜』ではないか?
この作品の批判でよく見るのは『意味不明なストーリー』と『作品としての浅さ』じゃないでしょうか?確かに表面的にはそう感じるのもわかります。
自分も中盤までは『あ〜はいはい家族礼賛ね』とちょっと斜に構えていたのも事実です(笑)でも後半に未来のくんちゃんと出会いファンタジーの東京駅を見た時に気がつきました。
見事すぎるファンタジー東京駅 直前の田舎駅からの構成は素晴らしいと思う。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) (当ブログの画像引用について) |
あ、これは細田守版の『夢十夜』だったんだ。夏目漱石の『こんな夢を見た』・・・で始まる不思議な物語。そうだとすれば『つじつま』とか『盛り上がり』とか、この作品の異様な部分は納得できると思うんですよね。
犬のゆっこ、未来ちゃん、おかあさん、ひいじいちゃん、そして、未来のくんちゃんとファンタジーの東京駅へ・・・小さな物語をつないでいく不思議な構成が、夏目漱石の『夢十夜』を強く連想させました。
『長い夢』から始まるテーマ曲の意味
そう思ってみると冒頭のテーマ曲。コレ意味深じゃないですか?
いきなり山下達郎の楽曲から始まる素晴らしいオープニングで、まるでエンディングみたいな構成が素晴らしくて感動しちゃったんですが・・・最初の歌詞の一節。
いきなり山下達郎の楽曲から始まる素晴らしいオープニングで、まるでエンディングみたいな構成が素晴らしくて感動しちゃったんですが・・・最初の歌詞の一節。
『長い夢から 醒めたばかりの 瞳が僕を見つめてる』
(作詞:山下達郎/ミライのテーマより)
この歌詞はもちろん『未来ちゃんが生まれたお父さんの視点』なんですけどね。でも『こんな夢を見た』という夏目漱石の書き出しと重なってしまうんですよ。
で、問題は誰の夢なのか・・・ってことなんですが。
で、問題は誰の夢なのか・・・ってことなんですが。
未来ちゃんがこんな夢を見たんじゃないか・・・という細田監督の夢
この作品を夢想している一番大きな視点は『細田監督』なんですが、物語の中で夢を見ているのは『未来のミライちゃん』のような気がするんですよね。
ちょっと言葉で表現しにくいんですが・・・自分には
細田監督が『未来のミライちゃんがこんな夢をみたんじゃないかな?』と夢見た世界を描いた気がしてならないです。
ちょっと言葉で表現しにくいんですが・・・自分には
細田監督が『未来のミライちゃんがこんな夢をみたんじゃないかな?』と夢見た世界を描いた気がしてならないです。
お父さんが疲れて居眠りするシーンがあるけど この作品自体が『夢』であることのメタファーに見えた。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
その夢の世界をあえて未来ちゃん視点ではなく『くんちゃん視点』で構成している・・・強引な解釈かもしれないけど、そうだったら面白いなぁって。
キレイに閉じられる物語の入れ子
だって、『お母さん』や『ひいじいちゃん』のエピソードはあるのに、『お父さん』のエピソードは間接的にしか出てこないのはなぜか?
これがあくまで父によって作られた夢であるからじゃないかな。
そして『ミライの未来ちゃん』と『赤ちゃんの未来ちゃん』は同時に存在できないのに、『子供のくんちゃん』と『未来のくんちゃん』は会話できる不思議。
これって未来ちゃんの夢の主体だからでは?
これって未来ちゃんの夢の主体だからでは?
赤ちゃん時代の未来ちゃん なぜ彼女は同時存在を認められていないのか? (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
そして最後に、クライマックスの後に兄弟が朝食を食べて学校に行くシーン。これは『未来ちゃんの夢』が終わった『目覚めの朝』を意味している気がします。
そして語り手である子供の『くんちゃん』は家族に戻り、夢の作り手である『お父さん』がお母さんと語るシーンで映画は終わる・・・。
そして語り手である子供の『くんちゃん』は家族に戻り、夢の作り手である『お父さん』がお母さんと語るシーンで映画は終わる・・・。
ひっくり返されたおもちゃ箱のような世界がキレイに閉じられていくような、こんなに美しい構成・・・と感じたら感動してしまいました。
最初は薄っぺらい話だと思っんですが
実のところ自分は中盤まで、薄っぺらい話だなぁ・・・とちょっと呆れ気味でした(笑)でも途中で気づいたんですよね。
それは、未来ちゃんがタイムリープする理由。女子高生(中学?)のくせに『婚期に遅れたくない』というしょーもない理由なこと。は・・・SFじゃないの?
しょーもない理由でタイムリープするのは 『時かけ』の真琴を強くイメージさせる。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
でも『そうは言っても後半で実はスゴイ理由があるんでしょ?誰か死ぬの?おかあさん?おとうさん?』なんて・・・期待してたら(ゲス笑)、なんの悲劇も起こらずに静かに終わる物語。
おいおい、大スペクタクルのSF作品のように思わせておいて、実のところSFでもなんでもなくて、整合性の全くない破綻したストーリー?
いやいや・・・な、わけないよね?あまりにも露骨な破綻ぶりで逆に気がつけました(笑)
破綻した脚本なはずがない!
これは、生まれたばかりの我が子の成長を見た細田監督が、この子はどんな夢を見るんだろう・・・と夢想して作った作品なんだと。
言葉もわからない未来ちゃんが『雛人形の話』を聞いて将来気にしちゃうんじゃないかな・・・とか、君たちはこんな奇跡みたいな繋がりの末にいるんだよ・・・とか、父の視点から子供達に伝えたいことが詰まった作品。
過去の色彩が独特なのは アルバムの写真の記憶が投影されているのだと思う。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
この『夢の中の夢』のような構造を感じた時、薄っぺらくて内容のない物語から、すごく複雑で挑戦的な物語に変わりました。
自分のこの解釈が正解かどうかなんてわかりません。初見での感想ですしね。でも、これまでヒット作を作ってきた細田監督がわざわざ破綻したストーリーを発表するわけもないわけで。
これまでの作品を踏まえた上で『さらに抽象度の高い作品』として挑戦したんじゃないかなと。
自分のこの解釈が正解かどうかなんてわかりません。初見での感想ですしね。でも、これまでヒット作を作ってきた細田監督がわざわざ破綻したストーリーを発表するわけもないわけで。
これまでの作品を踏まえた上で『さらに抽象度の高い作品』として挑戦したんじゃないかなと。
現代だからこそふさわしい作品
『サマーウォーズ』で大家族を描き、『おおかみこどもの雨と雪』などで社会の片隅に光をあてる作品も作ってきた細田監督が、どうしてこの作品を作ったか。
正直この家族は恵まれていますよね。両親が共に立派な職業を持ち祖父母の応援もある。もっと描くべき社会問題があるじゃないか・・・と。
でも、ここで両親に問題があったり、死んだり、失業したり・・・では、この作品のテーマはボヤけると思うんですよね。
でも、ここで両親に問題があったり、死んだり、失業したり・・・では、この作品のテーマはボヤけると思うんですよね。
おそらく自宅も親の援助があったのかな? でも子育てに親が協力するのは本来当たり前の姿。 核家族化でそのことが忘れられてきた。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
社会で苦しんでいる人たち、日の当たらない人たち・・・そういう部分に焦点を当てるのも映画の力ですが、いま彼が表現するべきことはそれじゃなかった。
今の日本・・・というより少子化の進む国の人間だからこそ、子を持つ喜び、育てる喜びを伝える必要があって、恋愛をポジティブに描く作品が必要なのと同様に、子を持つことをポジティブに描く作品が必要とされていると思います。
そこには余計な事件は必要ない。子供が生まれたという以上の事件なんてない。伝えたいのは『子育ての大変さ』じゃない。『子が生まれたという喜び』を伝えたかったんだと思います。
この当たり前すぎる自明なテーマが当たり前でなくなりつつある社会・・・これこそが日本が抱える大きな社会問題であり、いまこそ彼が作るべき作品だったのだと思います。
この当たり前すぎる自明なテーマが当たり前でなくなりつつある社会・・・これこそが日本が抱える大きな社会問題であり、いまこそ彼が作るべき作品だったのだと思います。
自分にもあったかもしれない未来
正直言うとね、子供がいない自分にはすこし『痛い』です。繋げなかった苦しさってやっぱりあるんだよね。各方面に申し訳ないというか。
劇中で『ちょっとした理由で違う未来があったかも』というシーンがあったけど、自分はもしかしたら、その『違う未来』を生きているのかもしれないって・・・思うんですよね。
『あったかもしれない未来』を想像したとき、生まれてこなかった我が子に『ごめんね』って気持ちになる。(別に死産とかそういうことじゃなくてね)
でも何が良いかなんてわからないし、結局選ばれた未来を生きるしかないよね。
自分は『未来が過去を変える』という考え方が好きなんだけど、ひいじいちゃんが特攻で足を負傷したのも、その時点では不幸かもしれないけど、その後に不自由がキッカケで幸せになって『過去の意味』が変化したわけですよね。
祖父は先祖とのつながりを表現すると共に 未来が過去を変えることへのメタファーに感じた。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
未来ちゃんの手のアザだって・・・祖父母は心配するけど、あのおかげでくんちゃんにすぐ気付いてもらえたし、未来ちゃんの幸せのキッカケになるかもしれない。
なにが幸せかなんてわからない。この作品にはそんなメタファーも込められていると思うんですよね。
最後に
まあ、ずいぶん絶賛しましたが全然違ってたらごめんなさい(笑)こういう解釈もあるよねってことで。
それに細田作品で一番好きなのは?と言われればやっぱり『時かけ』かな。これは自分の好きなアニメ映画のトップ5に入る作品ですね。今でも。エンターテイメントとして非常に優れていますよね。
でも複雑さとか構成の面白さという点では『未来のミライ』は負けてないどころか最高だと思います。
くんちゃんの声は女の子の声に聞こえる違和感。 でもこれも未来の見た夢だからと解釈できるかも。 (未来のミライ より/©2018 スタジオ地図) |
冒頭に『エンディングみたいなオープニングだった』と書いたけど、見終わった後はやっぱり、あのオープニングはエンディングと繋がっている気がしますね。曲こそ違えどもほどんと同じ構成だし、2度目を見たら冒頭でいきなり涙が出る気がします(笑)
実は全く期待してない作品だったのですが・・・いい意味で裏切られました。やっぱりさすがですね細田監督は。
実は全く期待してない作品だったのですが・・・いい意味で裏切られました。やっぱりさすがですね細田監督は。
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