ポノック短編劇場『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』 予告編より(当ブログの画像引用について) © 2018 STUDIOPONOC |
明らかに親子向けの作品だと思いますが、アニメファン視点では米林宏昌監督の『カニーニとカニーノ』が印象的。自分は米林監督の作品はイマイチ合わなかったのですがこの作品は良かったです。米林作品の好きなところだけを凝縮してくれた感じかな(笑)
個別の感想は後半に譲りますが、2作目の『サムライエッグ』はこの企画でなければ出会わないだろう作品。充実した構成で見ごたえありました。3作目の『透明人間』は渋くて暗い雰囲気が大人にも受け入れやすい作品。
小さい子供のいる親子なら見終わった後に会話のきっかけになる作品ばかりだと思います。1時間で3本と軽く楽しめる量ですしね。アニメファン的にはベテランの作った短編として作風の違いを楽しむって感じかな。
スタジオポノックの意欲的な企画。興行的に大丈夫なのか?と心配になりますが・・・他の映画のついでにちょっと見てみるってのも良いと思います。
『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』予告
Studio Ponoc 公式配信
そうそうたる実力派による短編アニメ
実は予告を見たときは『カニの話』だけだと勘違いしてました。最初のポスターはカニだけだったしね。3本まとめた企画タイトルが『ちいさな英雄』という事で、一つの共通したキーワードになってるのかな?と思います。
3人の監督が脚本も書いているので作家性も出てる気がします。米林監督は超有名ですが、百瀬義行 監督は古くから高畑勲作品に参加していた方で、山下明彦 監督はジブリ後半の作品、特に米林作品に多く参加されていた方。どちらも長年活躍してきた実力者という感じですね。
あと何気に有名俳優さんが出演してるんですよね。全然チェックしてなかったのでビックリしました。尾野真千子やオダギリジョー、田中 泯などそうそうたる実力派俳優ばかり。演技も違和感ありませんでした。
※次項より個別レビューとなります。重大なネタバレはないつもりですが心配な方は鑑賞後にご覧下さい。
『カニーニとカニーノ』:米林作品の好きな部分だけをすくい取ったような作品
実のところ米林監督の作品ってことごとく自分は合わなかったんですよね。ただ全部ダメなわけじゃなくて『メアリと魔女の花』の序盤なんてすごく好きでした。躍動感があって気持ちの良いシーンでした。
そういう米林作品の好きな部分だけをすくい取ったような作品。自分のように米林監督の作品はちょっと苦手だなあ・・・という人でも意外と満足感が高いかもしれません。
カニーニとカニーノきょうだい 蟹の擬人化だと思ったが・・・ © 2018 STUDIOPONOC |
まさに短編という感じで長い物語のワンシーンのような作品。だからストーリーはそれほど深く掘り下げなくて、そこが良いのかもしれないですね。
クライマックスの魚の描写などすごい緊張感で、スクリーンでみると迫力がありますね。魚をあそこまで怖く描けるとは。子供の反応が知りたくなります。
でもタイトルが『カニーニとカニーノ』ってインパクトすごいですよね。正直笑ってしまいました。てっきりカニの擬人化かな?と思ったけど違うんでしょうか。本物のカニもでてきて『え?』って感じでした。
まあ、小人みたいな存在なんですかね。その辺は本編で説明はないのですが特に理解に影響はなかったです。謎は多いですが話はシンプルで子供にも理解しやすいと思います。
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『サムライエッグ』:短編劇場がなければ出会えなかった作品
この作品は単体だったら絶対にお金払って見ないだろうな・・・と思うわけですが、じゃあ駄作かっていうと逆で素晴らしい作品なわけです。この作品こそ『ポノック短編劇場』という企画ならではの作品ですね。
卵アレルギーの少年という重たそうな物語ですが、非常に軽やかに描かれていました。母親役の尾野真千子さんの演技と、ふわっとした絵のおかげでしょうかね。
『この世界の片隅に』と同じような空気感というと言い過ぎかな。百瀬監督が多く参加していた高畑勲作品の影響を強く感じますね。
辛くて苦手な作品かな?と思ったけど 軽やかな展開で不快感を残さない。 © 2018 STUDIOPONOC |
少年はアレルギーが起こらなければ普通と全く変わらない活発な子供。わずかな摂取でも劇的な反応をしてしまう。このギャップがすごいんですね。食物アレルギーは知識としては知ってても、身近にいないとわからない事も多いわけで。
激しい食物アレルギーを持っていても普段はこういう活発な子供だったりするんだな・・・とか、食べた瞬間に自覚するものなんだな・・・とか、あまり考えた事もなかった自分に気がつきました。当然ながら人によって状態は色々なんでしょうけどね。
ただ説教くさい作品というわけじゃありませんね。構成的にも盛り上がりがあって短編とは思えない充実感なんですよね。単純に面白い!(そういう表現が適切かわかりませんけど)
ただいかんせん図書館で上映されるような作品なので、お金を出して映画館で見ていると不思議な気分になってきます。
まず自分では積極的に見ようとは思わない作品なので、こういう機会に乗せるというのは上手い戦略だと思います。とても心に残る作品でした。
それにしても尾野真千子さんの関西弁って聞いていて気持ちが良いですね。自分は関東なので地域性とかは全然わかりませんけど。一聴して彼女だってわかるんだけど違和感ないです。
『透明人間』:渋い絵と躍動感!でも解釈がむずかしい
この作品は年齢が上の子供でも楽しみやすい作品かな。絵的にはすごく渋くて良い雰囲気ですね。動きも素晴らしくて見ていてかなり期待が上がりました。
特に浮遊感や疾走感は素晴らしいです。山下監督は『メアリと魔女の花』で作画監督補だったそうですが、メアリが箒で飛ぶシーンを担当してたの山下監督だったのかな・・・と思うほどですね。(本当のところは知りません)
ただ、個人的には人物像がうまくつかめなくて戸惑いました。透明人間とは『透明人間のような存在感のない人』の比喩だと思うのですが・・・実際に空気のような軽さだったりして『実は幽霊なのかな?』とか思ったり。
最後までこの人物の位置付けがうまく把握できなかったんですよね。そこを考察するのが面白いのかもしれないけど・・・ちょっと意図がつかめなくて。
不安になるほど素晴らしい浮遊感 暗い絵も映画館だと渋い味わいで良い感じ © 2018 STUDIOPONOC |
クライマックスも確かに盛りあがって凄いんだけど・・・どうも物足りなく感じてしまった。まあ子供にもわかりやすいシンプルな構成なのかな。短編だし変にひねるわけにはいかないですよね。
この作品における『ちいさな英雄』って透明人間のことじゃなくて赤ちゃんのことなのかな?赤ちゃんが透明人間に生きる希望を与えたという事なんだろうか。
下手に深読みせず素直に受け取るべきなんだろうけど・・・もしかして会社でも奥さんにも空気のように扱われているお父さんが『せめて自分の子供には認識されたい』という悲しい比喩だったりして・・・そう考えると泣けますね。
まあ自分みたいな感想ブロガーも読んでもらえなければ空気みたいな存在だから共感するところはあるんですけど。それにしてもこの主人公はちょっと良い人過ぎますね。悲しいくらい。
ある意味『みんなと同じでありたい』という心の叫びかもしれないけど、もう透明人間として割り切って自由に羽ばたいてほしいですね。自分はそういうストーリーを望んでいたのかもしれません。
かなり期待感はあったのでちょっとハードル上げすぎたのかも。でも何気に長い感想を書いてるんだから、見た人に『考えさせる』という点では成功しているのかもしれませんね(笑)
アニメーションとしての動きの面白さは抜群に良かったのですし、オダギリジョーさんや田中 泯さんの演技も良かったです。山下監督には今後も注目ですね。
最後に:幻の高畑勲監督作品を見たかった!
3本とも方向性の違う作品でいいですね。お母さん、お父さん、子供、誰に取っても楽しめて、見終わった後に家族で色々と話ができる作品だと思います。
ただ、実はこの作品は4本目として『高畑勲監督の短編平家物語』をお願いする予定だったそうです。(日テレの特番で脚本?が一瞬映っていました)高畑監督が亡くなって実現できなかったそうですが。
西村義明プロデューサー「高畑勲さんに1本頼むつもりだった」と短編劇場への思いを明かす - cinemacafe
確かに4本目に『短編 平家物語』が入る事で完成された感じがしますね。ぜひ見たかったなぁ・・・とはいえ、高畑監督に頼んでいたらスケージュール通りに公開できたか非常に心配ですが(笑)
それは別にしてもスタジオポノックの意欲的な企画。興行的に大ヒットとはいかないでしょうが、映画館以外での上映会など広く需要はありそうですね。応援したいところです。
「カニーニとカニーノ」脚本・監督:米林宏昌
「サムライエッグ」脚本・監督:百瀬義行
「透明人間」脚本・監督:山下明彦
プロデューサー:西村 義明
企画制作:スタジオポノック
ポノック短編劇場 『ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』
公式ホームページ
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