本当に名作中の名作として語り継がれる作品になるんだろうなと思いました。片渕須直 監督の事はよく知りませんでしたが、クラウドファウンディングで応援した皆さんには敬意を表したいです。
全編美しい水彩調の映像で表現される作品 2016年はアニメ映画界において歴史的な年かもしれない 本予告より画像引用(当ブログの画像引用について) ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会 |
2016年がアニメ映画界において特別な年であることを象徴する作品でした。それぞれ個性があるので優劣はつけられませんが、本作は本当に観るべき価値のある作品だと思います。
でもですね、それを前提にした上で、ど〜うしても言いたい事があります・・・それは・・・感動しやすい人はマジで注意してねっ!って事。
※予告編以上の重大なネタバレはないレビューです。
感動屋さんはメンタルケアに注意!
もうね・・・超絶メンタルにきちゃいましたよ・・・半端ないです。みんな同じかと思ったけどTwitter見たら意外にヤられてない人多いみたいでビックリしました。まあ、感じ方はそれぞれですからね。
『この世界の片隅に』本予告(公式配信)
©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
ちょっとメンタル弱い・・・というか、共感性や感受性が過剰気味な人ね。すぐ感情移入して感動しちゃう人は身構えた方が良いです。
例えば、映画『聲の形』を観たあと軽く寝込んじゃうようなメンタルの人・・・まぁ自分がそうなんですが・・・『この世界の片隅に』はあまりに感情を揺さぶられすぎて本当にヤバかったです。『聲の形』が癒し系に感じるくらいですよ。
誤解して欲しくないのは過激描写で見せる作品じゃないので、子供に危険とかじゃないんですよね。むしろ退屈になっちゃう子もいるかもしれないです。大人の方が心に響くという事で。
(補足)あくまで一部の人であって、多くの方にとっては特に身構える作品ではありません。コメント頂けた下記の『もあい様』のような感想もとても多い作品です。本当に見る人によって感じ方の違う作品だなぁと思います。
私は鑑賞後晴れやかというか穏やかな気持ちで映画館を後にすることができたので、katoさんの感想やコメント欄を拝見し「私は本当にこの人達と同じ映画を見たのか……?」と少々戸惑っています(笑) - もあい様のコメントより引用
『日常系』じゃないってば・・・
でもちょっとビックリしたのは、この作品を『日常系』と評する意見がある事ですね。ましてや『日常系萌えアニメ』とする方もいらっしゃったりして。
『「戦争もの」「太平洋戦争末期のお話」「広島にほど近い呉が舞台」という先入観はことごとく崩されてしまった。これは「萌えアニメ」だ。それも日常系萌えアニメである。』狐の王国 より引用 (※)
ここで言葉尻の批判をしたいわけじゃないんですよ。『日常系』っていうのも言葉のアヤなのは理解しています。個人的には、本作は『日常を描いた作品』であって『日常系萌えアニメ』ではないと思いますけどね。別に撤回してほしいと言いたいわけじゃないです。(言葉についての意見は文末で)
ただ、私が言いたいのは、この作品は一部の人に対してはかなり精神的な衝撃が大きいので注意してほしいという事です。日常系+αみたいな表現はちょっとミスリードを誘うのではないかと心配するのです。
まぁ、自分みたいにちょっと極端な反応する人はわずかかもしれませんけどね・・・自分は子供のいない夫婦なのでストーリー的に直撃弾だったのかもしれないし。
いずれにせよ、見るのにちょっと覚悟が必要な人がいる。感動しやすい自覚のある人はちょっと注意してほしいです。でも、それでも、心に痛みを感じるかもしれないけど、そのリスクを冒しても本当に見る価値のある作品だと思います。
※狐の王国のKoshianX氏よりブックマークコメントいただきました。
痛みは癒えていないけど・・・
今回、映画のストーリーに踏み込んだ感想は書けません。とてもまだ、自分はこの作品に正面から向き合う事が出来ないんですよね。主人公のすずさんの事を考えただけで心が震えてきて、正直言うと思い出すのが怖いです・・・。
元 能年玲奈さんである『のん』演じるすずさん。 今回予告編の再見だけでも精神的にヤバくなってきた・・・。 ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会 |
だから、この作品を見た後に自分の精神はどんな反応を示したのか、そしてどうやって悲しみから回復したのかを書いてみます。同じような人の参考になればと思います。繰り返しますが、それでも見る価値のある作品です。
戦時中の話ですからね、もちろん見る前からある程度の覚悟はしていましたよ。ツイッターの試写での声や、町山智浩さんのレビューも聞きました。ああ、これは精神的に相当きちゃうかなぁ・・・と身構えてはいました。
こんな戦時中の描写は初めて
でもいざ見てみると・・・そっちから来るかぁ〜!って感じで、もうどうしようも無かったですね。心の奥の奥の大切な部分が大きく揺り動かされて、感情の振幅は自分の許容範囲を超えてしまいました。
ほんと、冒頭でも書きましたが過激な描写で泣かせるわけじゃないんですよね。戦争作品にありがちな嫌な奴ってのが本当に少なくって、日常描写が楽しい戦争作品って本当に珍しいと思います。
呉という舞台ならではの、出征しない若い夫婦の描写って本当に新鮮だったし瑞々しい描き方でした。内地勤務の法務武官の生活を描くのって初めて見た気がします。
内地勤務である夫との生活 辛さはあれども瑞々しい日常が印象的 ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会 |
同じ戦時中を描いたアニメ『火垂るの墓』が、嫌な人いっぱいの作品で、辛さの連続でしたよね。それに対して『この世界の片隅に』 は小さな幸せや喜びの積み重ねがたくさんあって、だからこそ一層重いパンチのように効いてしまうのかもしれません。
涙の種類が違う
だから、いざ感想を書こうと主人公のすずさんのことを思い出そうとするだけで精神的に普通ではいられなくなります。たしかに、本年の大傑作である『君の名は。』や『聲の形』でも号泣と言って良いくらいすごく泣きました。
でもね、その涙にはある種の心地よさがあったんですよね。泣いた後はグッタリしてしまうけど、しばらく余韻に浸っていたいような気分・・・また何度でも見に行きたいって気分です。
自分にとって『この世界の片隅に』の涙はそういうのではなかった。盛り上がって気持ちよく感動できる作品じゃない。涙が流れても心の悲しさは解消されず残ってしまう。
ボディーブローのように効いてくるという意味では『聲の形』に近い感覚だけど、『この世界の片隅に』はいきなり初見でどうしようもなくなってしまいました。
(参考)映画 聲の形 の感想 前編:全てにピントが合った時の衝撃に言葉が出なかった - アニメとスピーカーと
メンタルの危機を感じた
エンドクレジットが明けても涙が止まらなくって、上映後にフラフラとトイレの個室に駆け込んで嗚咽しました。こんなことは今まで経験がなかったです。
ようやく落ち着いた気がして暗くなった駐車場に戻りました。一息ついて水を飲んで、買っていたおにぎりを食べた途端、また突然どうしようもなく嗚咽・・・。
まさにむせび泣くという感じで、車の中一人で声をあげて泣いてしまいました。しかも何度も・・・別に映画の事とか思い出してないんですよ。ただ食べようとしただけ。
こんなのはいくら何でも初めてで、正直メンタルの危険を感じるというか、軽いPTSDになるのではないかと本気で心配になってきました。というか運転して帰れるのか・・・俺。
しばらく休んで、落ち着いてから感情を殺して運転していましたが、ふとした瞬間に心が揺れてしまう。このまま家に帰って奥さんとまともに会話できるだろうか・・・精神的に普通に戻れるのか不安になりました。
きんモザに救われる・・・
いつもですと、映画で感動した後は音楽とかって聞かないんです。余韻に浸りたいんですよね。でも、今回ばかりはね、このまま帰宅すると自分の心が持たないような気がしました。
そんな時、本当に幸運だったんですが、一昨日に見たばかりの映画『きんいろモザイク Pretty Days』のEDテーマ『Starring!!』をiPodに入れたばかりだったんです。とっても気に入った曲だったので、これで気を紛らわそうとしました。
すると信じられないほどの涙・・・この曲でここまで泣くなんてウソ見たいですが、いままで我慢していた感情が一気に爆発したように号泣しました。まさかこの曲で泣くなんて想像もしてなかったよ。
悲しみが幸せに振り替わる
夜だったので暗がりに停められてラッキーでした。本当に楽しくて幸せなこの曲を何度も泣きながらリピートして口ずさんでいると、これが不思議・・・きんモザで感動したような錯覚に陥ってくるのです。
つらくて悲しい感情で溢れてしまった精神が、きんモザの幸せな感情にどんどん『振り替えられていく』のを実感して驚きました。何回リピートしたか忘れましたが、涙が枯れるころにはすっかり幸せで感動したような心地よい気分に。
amazon MP3 (試聴あり)
過剰な感情の揺れをきんモザで消費する事で、『悲しい感動』が『幸せな感動』に振り替えられた。
過剰な感情の揺れをきんモザで消費する事で、『悲しい感動』が『幸せな感動』に振り替えられた。
本当に冗談みたいな話ですがネタではなくて本当です。
前回の投稿で、きんモザに代表される日常系萌えアニメは『大人の癒し』であると書きましたが、まさかこんな形で救われるとは想像もしていませんでした。
奇跡的な神の采配
2016年後半の傑作アニメ映画『君の名は。』『聲の形』『この世界の片隅に』 の3本。この公開順序も奇跡的な並びだと思ったものです。
でも自分は『この世界の片隅に』 と『きんいろモザイクPretty Days』が同日公開である事の奇跡に感謝せずにはいられない。
『この世界の片隅に』がアイスクリームなら『きんいろモザイクPD』は添えられたウエハースのように悲しみの心を癒してくれる存在。アニメの神様がいるなら本当に気の利いた事をしてくれたものです。
速やかな回復ができたけど・・・
帰宅して奥さんと会った時には、なんとか会話ができるほどまで感情が回復してきました。今回奥さんと一緒に行く予定だったのですが、予定が変わって一人で行ったのは結果的にラッキーでした。
いくら何でもここまで自分の心がやられるとは思っていなかったですからね。泣き過ぎたせいかひどい頭痛と胃痛でぐったり。夜中にまた精神的に不安定になったので、起きてきんモザの楽曲を聞き直しました。
影響が心の芯に響いてくる感じなので、より心身への影響が大きいです。幸い2日ほどで回復できましたが、きんモザがなければもっと長く引きずってたと思います。
副作用で、未だにきんモザEDの『Starring!!』を聞くと泣けてきますけどね・・・。
感動しやすい自覚のある人は、頭痛薬や胃薬などストレス対応の薬を用意するのはもちろんですが、鑑賞後にネガティブな心の揺れを、幸せな気分に振り替えられる音楽などを用意するなど、準備をすることをお勧めします。
でも、何度も言いますが、それだけしても見る価値のある作品です。
こだわりの兵器描写
宮崎駿氏に勝るとも劣らない兵器描写へのこだわりを持つといわれる片渕須直 監督。本作では人間描写のみならず、兵器の正確な描写も話題でしたね。
水彩調の美しい色彩だけど 兵器や設備、街並みまで非常にこだわって描かれている ©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会 |
自分も人並みには戦争の知識はあると思っていましたが、初めて知った事がいくつもありました。空襲といえば街を焼き払うための焼夷弾の事はよく聞いていますが、基地を破壊するための爆弾についてはよく知りませんでした。
また、高射砲が山の上に作られる事、高射砲の弾薬は着色されている事、上空の炸裂弾の破片が降り注ぎ危険な事など、なるほどと思う事が多かったです。
また、湾に入港する戦艦の巨大な姿や、破壊前の軍港の様子なども興味深く、単なる反戦作品かと敬遠しているアニメファンにもお薦めしたいですね。
(参考)軍への記述が共感できる記事でした。「この世界の片隅に」は大傑作戦争映画だ。戦争映画マニア必見。 - 新リストラなう日記 たぬきち最後の日々 より
日常系と新日常系と・・・
冒頭でも書きましたが、さすがに本作を『日常系アニメ』とするのはどうかなぁと思うんですよね。もちろん、単に日常が描かれているから『日常系』と表現してたりする人もいるでしょうし、冗談半分であえて言っている人もいるでしょうけど。
https://ja.wikipedia.org/wiki/空気系
まあキャッチーな言葉ですし、そう表現したくなる作品ではありますけど。
でもやっぱり『日常を描いた作品』と言うべきじゃないかなぁ。『日常系』アニメに『厳しい現実』や『悲しみ』を描くのは用語上の矛盾ですよね。
まして、いくらキャラ萌えしたとしても『日常系萌えアニメ』は明らかにミスリードを誘う表現だと思うので怖い。
今回調べて初めて知ったのですけど、『日常系萌えアニメ』に『厳しい現実』を付加した作品は『新日常系』という呼び名があるんですね
『一見すると登場人物はいつも日常を送っているようで、実はその背景となる世界は過酷な状況や運命が潜み、いつ日常が壊れるか危うい日々の物語が「新日常系」という、新たな概念として分類されている。つまり、ハートフルと見せかけて、ハートフルボッコな作品のことである』ピクシブ百科事典 - 新日常系 - より
今回は『日常系』より、対極の意味となる『新日常系』という用語が適切だと思いますが、いかんせん一般への認知度は低いので伝わりにくいですね。
そういう意味ではTwitterでの Dieske (@diecoo1025)氏の発言が面白いです。
私見では、『この世界の片隅に』は「日常系」として失敗することをあらかじめ宿命づけられた、「日常系」に抹消記号をつけたようなアニメという気がする。そこが興味深いなと思ったのだけれど。— Dieske (@diecoo1025) 2016年11月14日
つまり・・・『
観るべき価値のある作品
まあ、いずれにせよ、この作品はやっぱりド直球に『本当に観る価値のある傑作』と言いたいかな。多くの人に見てもらいたい、でもあくまで自己責任でどうぞ(※)という感じ。
(※)追記:ブックマークコメントで指摘がありましたが、危険な作品という意味では全然なくて『知った上で』という意味です。『日常系と聞いていたのに・・・』という不意打ち感で楽しむ作品ではないと思うので・・・誤解させちゃったらごめんなさい。
戦時中の若い夫婦の日常を瑞々しく描き、できるだけバイアスを排して戦争を描き、元能年玲奈さんである『のん』演じる『すずさん』の奇跡的にシンクロする演技に驚愕する、他に比類のない作品です。
ただ、自分はまだ2回目を見にいく勇気がありません。奥さんにも見てほしいけど、自分みたいな気分にさせたらかわいそうな気もするし。(でも奥さんは自分ほどは感動屋じゃないので大丈夫かな)
とにかく、本当に見に行ってよかったです。監督はじめこの作品を制作した皆さん、支援した皆さんには心から敬意を表したい作品でした。
原作:こうの史代
監督・脚本:片渕須直
音楽:コトリンゴ
企画:丸山正雄/監督補・画面構成:浦谷千恵
キャラクターデザイン・作画監督:松原秀典
色彩設計:坂本いずみ
アニメーション制作 : MAPPA
この世界の片隅に 公式サイト
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