『リズと青い鳥』を映画館で7回目の鑑賞をしてきました。
本当に本当に、素晴らしい作品でしたね。2018年前半でダントツで大好きな作品。たぶん2018年ベストの作品になりそうです。
そんな自分もなんと初見では『まあ、悪くないけど・・・』ぐらいの感想だったんですよね(笑)今となっては信じられませんが。それだけ情報量が多くて受け止めきれない作品でした。
2度目の鑑賞でそのすごさに衝撃を受け、4回5回で飽きるどころか心地よさすら感じてきます。派手な盛り上がりのない静かな作品なのにね。どうしてここまで心を掴むんでしょうか。
それを言葉にしようとするんですが、言葉にしようとすると消えてしまうんですよ。そんな『はかない幻のような感覚』を表現した作品。
初日に見てから3ヶ月あまり・・・ようやく自分のなかでこの作品の感想を書き上げる事ができました。この作品の素晴らしさはすでに多くの方が書いていますよね。
ただ、自分が7回鑑賞してやっとたどり着いた解釈は書いておきたかった。この構造に気がついて、見える景色に本当に感動したからです。
とっくに周知の解釈かもしれないし、正しいかもわかりませんが、自分の感情の軌跡と共によかったら読んでください。
※ネタバレを含むレビューとなります。個人的な考察ですのでご了承ください。
楽しみに待っていた公開日。話題の原作小説はあえて未読で、ネタバレ情報は一切入れずに初日に鑑賞したのですが・・・。
初見の感想は正直微妙な感じでした。今では我ながら苦笑してしまうのですが・・・童話シーン、日常シーン、平板な構成、キャラデザ、ブツ切れの2段エンディング・・・などなどやたらと違和感を感じたんですよね。
それにもかかわらず溢れてくる涙・・・なんで?って感じの涙。これって『聲の形』と同じなんですよね。何かを感じるのに受け止められてない感じ。情報量が多すぎて処理できていないんです。
聲の形よりもさらに抑揚の少ない構成なので一層不思議な感じでした。前作総集編『届けたいメロディ』は非常にわかりやすく感動的な盛り上がりのある作品だったので、この静かさに戸惑ったんですね。
それが2度目の鑑賞では全然見える景色が違うんですよね。初見では冗長に感じた童話シーンがすごく意味を持って見える。何だこれ?ってくらい印象が変わりました。
それでも何だかよくわからないタイミングで涙が出てくる。明確な盛り上がりで感動させるという構成じゃなくて、気づかないうちに感情のプールがいっぱいになっている感じ。だからちょっとの揺れで涙が溢れてしまう。
山田監督の作品は『初見の印象はアテにならない』って自覚はしていたんですけどね。まさかここまでとは。実際2度目を見るまで『今回ばかりは自分にはちょっと合わない作品かなぁ・・・』なんて本気で心配していたんです(笑)
さすがにここまで鮮やかに評価を変えさせてくれると、ほっとするやら感心するやら妙な気分になりました。でもこういう作品はジワジワ心を侵食して虜にされてしまうんですよね。
そして3度4度目になると、これまでのピンと張り詰めたような印象から、もっと浸っていたいような心地よさに変わってきました。
最初は二人の劇的なまでの緊張感こそがこの作品の魅力だと感じてました。フルートパートの会話シーンや、ダブルリードの会のエピソードのような、いわゆる『日常パート』は緊張を和らげる『箸休め』だと。初見の頃はちょっと邪魔だなと感じてたくらいでしたね。
でもだんだん、その『日常パートの魅力』に惹かれていったんですよね。
演劇部を舞台にした日本映画『櫻の園』が好きだったので、こういう何気ない会話劇がすごく魅力的でした。だからこの頃は『のぞみぞ2人の物語』と『日常の会話劇』の二つがこの作品の魅力だと感じてました。
でもね、なんか違和感あったんですよね。この日常パートは果たして緊張感を和らげるための『箸休め』なのかな?なにか特別な意味があるような・・・。
でも6回目を見終わってから気づいたんです。希美がフルートパートで楽しく話をしている時の、ちょっとだけ無理してるような違和感。
笑い方とかセリフとか・・・なんかイマイチ馴染みきってないというか、装っているというか。なんか妙な緊張感が混ざっている気がする。
それに気づいた時・・・『希美とフルートパート』そして『みぞれとダブルリードの会』はそれぞれセットになって希美とみぞれの人間性を対比させているんだと気付きました。
日常シーンは二人のシーンの重要な伏線なんだって、両方を一体として理解した時・・・この作品の深さに驚愕したのです。
希美はフルートパートに溶け込んでいるように見えて、実のところ本当には心を通わせていない。どこかみんなから『あるべき姿』を演じている。そんな風に見えるんですよね。
憧れられる存在、頼られる存在として、そのイメージ通りの存在であろうと、無意識かもしれないけど頑張ってしまう。きっと集団退部の時もそんな感じだったんだろうな。
本当のところはフルートパートのあの『ノリ』にはついていけないのに、うまく乗ってしまう器用さ。途中復帰なのにすぐに馴染めてしまうコミュ力の高さですよね。
でも、ところどころで見え隠れする、無理に笑っている感じ、演じている感じの違和感。表情やセリフからなんか滲み出てくるんですよね。
それがフルートの日常パートにおける、和みと緊張感の入り混じったような不思議な感覚の原因か!そう思った時・・・すげぇ・・・と一人感動してしまいました。
それに対してみぞれは、希美と正反対に後輩の誘いをシャットアウトして、何と思われようと気にしない。一見すると依存性が高くて弱い存在のようで、実はすごく頑なで強い。
でもみぞれは徐々に後輩たちに心を開いていくんですよね。希美が『求められる自分』を演じるばかりに表面的な人間関係になっているのに対して、みぞれは自分に正直に生きることで逆に心を通わせられる人間関係を作っていく。
そんなみぞれを知ったときの希美の心中はどうだったろう。プールの写真にもフルートパートの人は写ってないじゃないですか!つまり希美が誘いたい友達はフルートにはいない。
後に希美が『みぞれが思うような人間じゃないんだよ』とか『むしろ軽蔑されるべき』と自嘲するシーン。この伏線を踏まえるとさらに厚みを感じませんか?
そして『ずるいよ』ってセリフ。楽器の才能だけじゃなくて人間関係もだと考えると・・・理不尽に感じる希美の気持ちがすごくわかる気がします。
箸休めだと思っていた『日常パート』が実は、みぞれと希美の人間性をこれほどまでに見事に表現していたとは・・・しかもこれほどまでに魅力的にね。本当に驚きました。
そして、その二人の両方をサポートするのが夏紀なんですよね。
みぞれへのサポートは本当にカッコイイですよね。フラットな関係性で押し付けがましくない優しさ。正論で済ませない。人の気持ちに気がついて寄り添う。
みぞれだけじゃなくて希美も夏紀に相談してますよね。夏紀への相談しやすさって、優しさもあるけどアウトサイダー的な立ち位置ってのもあると思います。
体面を気にする希美も夏紀の前なら素を出せる。敵でも味方でもない。味方ですらガッカリされたくないので弱音は吐けないのが希美の性格ですよね。
夏紀なら気を使わなくて良いんだろうな。でも夏紀だって『我が道を行く』という性格なわけでなく、人の気持ちに敏感だからこそ無意識にそういう立ち位置になった気がしますね。
夏紀の魅力って自分の無力さを知ってるからこその優しさだと思うんですよね。上から目線でアドバイスせず寄り添う事ができる人。なんかそんな存在でありたいなぁと思います。
・・・と、ここまでが自分の解釈でした。初見ではバラバラに見えたシーンがどれも無駄なく働いている。でも決して難しい作品ではなくて、面白くて近づくとどんどん見える感じ。すごいよね。何重にも感動できる作品でした!
最後に特に感動した名シーン!
しかしここまで名シーンが多い作品ってのもすごいよね。どのシーンが好きかって言われてもとても選びきれない。考え始めると何もかもが素晴らしいシーンの連続です。
そんな中で特に印象深いシーンをあえて4つ選びました。
劇伴としてクライマックスを演出するのではなくて、演奏自体をセリフのように使うという離れ業。曲の素晴らしさもありますがその演出力に圧倒されました。
見ている方も幸せと切なさでどうにかなりそうになりますね。それにしても、この部分の劇伴の素晴らしさ!ピアノのメロディーがみぞれの心と見事にシンクロして涙が出てきます。
理科室から廊下を歩く希美の一連のシーンはどれも素晴らしいカットの連続ですよね。みぞれを誘う回想シーンにも感動しました。冒頭のみぞれ視点の回想シーンと対になっていているんですよね。
このシーンは『錬金術師の隠れ家』の、びおれん(@phanomenologist )さんの考察がすごく好きです。本作で特徴的な『色彩表現』の解釈が素晴らしいと思いました。
もう最高に幸せなみぞれの笑顔。見ている自分もこの一瞬が永遠に続いてほしい・・・って願ってしまいます。お願いだからまだ終わらないで!って(笑)
でも『フルートの光のシーン』と同じく二人は噛み合っていないんだよね。また少しズレてる。その切なさも含めて猛烈に感動します。
ここも劇伴が神がかってるんですよね。最後ピアノのトーンが変わるところで必ず涙が溢れてしまいます。
一見すると静かでなんでもないシーン。でもすごくいろんな思いが織り込まれているんですよね。あのラストシーンの素晴らしさは見事としか言いようがありません。
あと、もう一つ言及したいのは西屋さんのキャラクターデザイン。発表された時は違和感が強かったんですよね。こんな生気のないキャラで・・・TV版の希美が好きだったので心配してました。
でも今や、元のデザインに戻れるか心配なほど。ホント良いですよね。
同じ青春でも、TV版が『焼きつくような熱い青春』なら、リズは『消えてしまうような儚い青春』を表現している気がするんですよね。確かにTV版の色彩やデザインではリズを表現しきれない。
キラキラ輝くTV版に比べて、カワイイ盛りを排した表現。どのキャラクターも、人間の『生々しさ』がちょっとだけ混じった気がします。
特に麗奈ですね。TVシリーズではキラキラした彼女ですが、本来はああいう印象だろうなって。冷たく厳しい。まさにイメージ通りでした。
あれならデカリボン先輩も食ってかかるはずだよなぁ・・・ってすごい納得してしまった(笑)リズではあんまりデカリボンじゃなくなりましたが。
希美もTV版では本当に可愛いキャラでしたが、リズでは微妙に違和感のある感じ。ほんの少しの『嫌な感じ』がうまく表現されていましたね。
山田監督の作品って情報量が多くて一度ではちゃんと受け止められないんですよね。『たまこラブストーリー』も『聲の形』も初見ではちゃんと評価できませんでした。
だから、もし『初見でイマイチ・・・』って感じた人がいたらぜひもう一度見ることを勧めたいですね。
特に今回は原作未読でしたが結果的に良かったな。前作の『聲の形』でもそうでしたが、自分は山田監督&吉田玲子さんの作品解釈がすごく好きなんだと思います。
原作をリスペクトしているのは当然なんですが、セリフに限らず、表現方法も含めて、アニメでしか表現できない方法での再解釈。そこに独特の『優しさ』がにじみ出ていてね。それが素晴らしい。
だから原作に影響されず、まずは純粋に山田監督の解釈を楽しめてよかったなって。心から驚き感動しました。本当に素晴らしい作品でした!
『リズと青い鳥』 公式サイト
http://liz-bluebird.com
ちなみに剣崎梨々花ちゃんが、自分の名前を間違えて『鎧・・・じゃなくて剣崎』っていうのは鎧塚先輩の相談をしようと頭一杯でつい出ちゃったって感じですよね。
新山先生が同じように『鎧・・・じゃなくて剣崎さん』って間違えるのは、同じ理由かもしれないけど、自分は『鎧』と『剣』が同じイメージで覚えてて、うっかり入れ違っちゃったって感じかなぁと思いました。
ここなんか面白くて、梨々花ちゃんのキャラ付けとしても秀逸ですよね。原作だとある場面なんですかね?2〜3回目くらいまでどういう意味なんだろうと結構考えてました。
reade more...
本当に本当に、素晴らしい作品でしたね。2018年前半でダントツで大好きな作品。たぶん2018年ベストの作品になりそうです。
『リズと青い鳥』ロングPV・MVより画像引用 (当ブログの画像引用について) Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
そんな自分もなんと初見では『まあ、悪くないけど・・・』ぐらいの感想だったんですよね(笑)今となっては信じられませんが。それだけ情報量が多くて受け止めきれない作品でした。
2度目の鑑賞でそのすごさに衝撃を受け、4回5回で飽きるどころか心地よさすら感じてきます。派手な盛り上がりのない静かな作品なのにね。どうしてここまで心を掴むんでしょうか。
それを言葉にしようとするんですが、言葉にしようとすると消えてしまうんですよ。そんな『はかない幻のような感覚』を表現した作品。
初日に見てから3ヶ月あまり・・・ようやく自分のなかでこの作品の感想を書き上げる事ができました。この作品の素晴らしさはすでに多くの方が書いていますよね。
ただ、自分が7回鑑賞してやっとたどり着いた解釈は書いておきたかった。この構造に気がついて、見える景色に本当に感動したからです。
とっくに周知の解釈かもしれないし、正しいかもわかりませんが、自分の感情の軌跡と共によかったら読んでください。
※ネタバレを含むレビューとなります。個人的な考察ですのでご了承ください。
初見では違和感・・・でも涙が?
楽しみに待っていた公開日。話題の原作小説はあえて未読で、ネタバレ情報は一切入れずに初日に鑑賞したのですが・・・。
初見の感想は正直微妙な感じでした。今では我ながら苦笑してしまうのですが・・・童話シーン、日常シーン、平板な構成、キャラデザ、ブツ切れの2段エンディング・・・などなどやたらと違和感を感じたんですよね。
もちろん初見でも良いところはたくさんあった。 特にみぞれの瞳の芝居が素晴らしい。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
それにもかかわらず溢れてくる涙・・・なんで?って感じの涙。これって『聲の形』と同じなんですよね。何かを感じるのに受け止められてない感じ。情報量が多すぎて処理できていないんです。
聲の形よりもさらに抑揚の少ない構成なので一層不思議な感じでした。前作総集編『届けたいメロディ』は非常にわかりやすく感動的な盛り上がりのある作品だったので、この静かさに戸惑ったんですね。
関連記事 劇場版 響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~ 感想:2期の総集編?これは新作と合わせた加筆完全版だ! - アニメとスピーカーと‥
景色が違う!2度目に見た衝撃
それが2度目の鑑賞では全然見える景色が違うんですよね。初見では冗長に感じた童話シーンがすごく意味を持って見える。何だこれ?ってくらい印象が変わりました。
それでも何だかよくわからないタイミングで涙が出てくる。明確な盛り上がりで感動させるという構成じゃなくて、気づかないうちに感情のプールがいっぱいになっている感じ。だからちょっとの揺れで涙が溢れてしまう。
初見では『長くて退屈』にすら感じていた童話シーン 声の演技も初見とは全く評価が変わった。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
山田監督の作品は『初見の印象はアテにならない』って自覚はしていたんですけどね。まさかここまでとは。実際2度目を見るまで『今回ばかりは自分にはちょっと合わない作品かなぁ・・・』なんて本気で心配していたんです(笑)
さすがにここまで鮮やかに評価を変えさせてくれると、ほっとするやら感心するやら妙な気分になりました。でもこういう作品はジワジワ心を侵食して虜にされてしまうんですよね。
緊張感が心地よさに入れ替わり・・・
そして3度4度目になると、これまでのピンと張り詰めたような印象から、もっと浸っていたいような心地よさに変わってきました。
最初は二人の劇的なまでの緊張感こそがこの作品の魅力だと感じてました。フルートパートの会話シーンや、ダブルリードの会のエピソードのような、いわゆる『日常パート』は緊張を和らげる『箸休め』だと。初見の頃はちょっと邪魔だなと感じてたくらいでしたね。
でもだんだん、その『日常パートの魅力』に惹かれていったんですよね。
フルートパートの会話劇は大好きで本当に癖になった。 特に『キミ持ってないよね?ワンピ』のシーンは最高 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
演劇部を舞台にした日本映画『櫻の園』が好きだったので、こういう何気ない会話劇がすごく魅力的でした。だからこの頃は『のぞみぞ2人の物語』と『日常の会話劇』の二つがこの作品の魅力だと感じてました。
でもね、なんか違和感あったんですよね。この日常パートは果たして緊張感を和らげるための『箸休め』なのかな?なにか特別な意味があるような・・・。
日常シーンの重要さに気がつく!
でも6回目を見終わってから気づいたんです。希美がフルートパートで楽しく話をしている時の、ちょっとだけ無理してるような違和感。
笑い方とかセリフとか・・・なんかイマイチ馴染みきってないというか、装っているというか。なんか妙な緊張感が混ざっている気がする。
すごく和むシーンなのにわずかに緊張感を感じる。 それは希美が無意識に空気を読んでいるのが伝わるから? Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
それに気づいた時・・・『希美とフルートパート』そして『みぞれとダブルリードの会』はそれぞれセットになって希美とみぞれの人間性を対比させているんだと気付きました。
- 希美:空気を読んで無意識に演じている
→本当の所で心を通わせていない。 - みぞれ:空気を読まずにシャットアウト
→でも徐々に心が通っていく。
日常シーンは二人のシーンの重要な伏線なんだって、両方を一体として理解した時・・・この作品の深さに驚愕したのです。
あるべき自分を演じている希美
希美はフルートパートに溶け込んでいるように見えて、実のところ本当には心を通わせていない。どこかみんなから『あるべき姿』を演じている。そんな風に見えるんですよね。
憧れられる存在、頼られる存在として、そのイメージ通りの存在であろうと、無意識かもしれないけど頑張ってしまう。きっと集団退部の時もそんな感じだったんだろうな。
本当のところはフルートパートのあの『ノリ』にはついていけないのに、うまく乗ってしまう器用さ。途中復帰なのにすぐに馴染めてしまうコミュ力の高さですよね。
希美の笑顔は嘘ではないんだろうけど 独特の『演じている感じ』がする。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
でも、ところどころで見え隠れする、無理に笑っている感じ、演じている感じの違和感。表情やセリフからなんか滲み出てくるんですよね。
それがフルートの日常パートにおける、和みと緊張感の入り混じったような不思議な感覚の原因か!そう思った時・・・すげぇ・・・と一人感動してしまいました。
本当の意味で心通わせるみぞれ
それに対してみぞれは、希美と正反対に後輩の誘いをシャットアウトして、何と思われようと気にしない。一見すると依存性が高くて弱い存在のようで、実はすごく頑なで強い。
でもみぞれは徐々に後輩たちに心を開いていくんですよね。希美が『求められる自分』を演じるばかりに表面的な人間関係になっているのに対して、みぞれは自分に正直に生きることで逆に心を通わせられる人間関係を作っていく。
そんなみぞれを知ったときの希美の心中はどうだったろう。プールの写真にもフルートパートの人は写ってないじゃないですか!つまり希美が誘いたい友達はフルートにはいない。
オーボエのような声の剣崎梨々花。 最初は違和感あるキャラだったけど慣れると最高に魅力的。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
後に希美が『みぞれが思うような人間じゃないんだよ』とか『むしろ軽蔑されるべき』と自嘲するシーン。この伏線を踏まえるとさらに厚みを感じませんか?
そして『ずるいよ』ってセリフ。楽器の才能だけじゃなくて人間関係もだと考えると・・・理不尽に感じる希美の気持ちがすごくわかる気がします。
箸休めだと思っていた『日常パート』が実は、みぞれと希美の人間性をこれほどまでに見事に表現していたとは・・・しかもこれほどまでに魅力的にね。本当に驚きました。
二人に寄り添う夏紀の立ち位置
そして、その二人の両方をサポートするのが夏紀なんですよね。
みぞれへのサポートは本当にカッコイイですよね。フラットな関係性で押し付けがましくない優しさ。正論で済ませない。人の気持ちに気がついて寄り添う。
みぞれだけじゃなくて希美も夏紀に相談してますよね。夏紀への相談しやすさって、優しさもあるけどアウトサイダー的な立ち位置ってのもあると思います。
クールなようで人の気持ちを汲む事ができる夏紀 集団退部や選抜落選など自分の無力さを冷静に受け止められる人 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
体面を気にする希美も夏紀の前なら素を出せる。敵でも味方でもない。味方ですらガッカリされたくないので弱音は吐けないのが希美の性格ですよね。
夏紀なら気を使わなくて良いんだろうな。でも夏紀だって『我が道を行く』という性格なわけでなく、人の気持ちに敏感だからこそ無意識にそういう立ち位置になった気がしますね。
夏紀の魅力って自分の無力さを知ってるからこその優しさだと思うんですよね。上から目線でアドバイスせず寄り添う事ができる人。なんかそんな存在でありたいなぁと思います。
・・・と、ここまでが自分の解釈でした。初見ではバラバラに見えたシーンがどれも無駄なく働いている。でも決して難しい作品ではなくて、面白くて近づくとどんどん見える感じ。すごいよね。何重にも感動できる作品でした!
自分の選ぶ名シーン4選!
最後に特に感動した名シーン!
しかしここまで名シーンが多い作品ってのもすごいよね。どのシーンが好きかって言われてもとても選びきれない。考え始めると何もかもが素晴らしいシーンの連続です。
そんな中で特に印象深いシーンをあえて4つ選びました。
- 言葉でなく演奏で感動させるオーボエソロ!
気がつくとセリフが一切ないのにはっきりと物語性を感じる。 これまで感じた事のない体験だった。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
劇伴としてクライマックスを演出するのではなくて、演奏自体をセリフのように使うという離れ業。曲の素晴らしさもありますがその演出力に圧倒されました。
- フルートの光のシーン
このシーンはアニメオリジナルらしいですね。 本当に奇跡のような素晴らしいエピソード。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
見ている方も幸せと切なさでどうにかなりそうになりますね。それにしても、この部分の劇伴の素晴らしさ!ピアノのメロディーがみぞれの心と見事にシンクロして涙が出てきます。
- 夕焼けにたたずむ希美
理科室から廊下を歩く希美の一連のシーンはどれも素晴らしいカットの連続ですよね。みぞれを誘う回想シーンにも感動しました。冒頭のみぞれ視点の回想シーンと対になっていているんですよね。
ハグからの一連のシーンは名シーンだらけ。 でもこのカットの入れかたは特に秀逸だと思う。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
このシーンは『錬金術師の隠れ家』の、びおれん(@phanomenologist )さんの考察がすごく好きです。本作で特徴的な『色彩表現』の解釈が素晴らしいと思いました。
『希美とみぞれを表すところの赤と青が、ここで初めて、紫がかった空と街並みとして混じり合う。希美とみぞれが互いの立場の逆転を自覚するという仕方で、両者は混じり合っている。』
傘木希美という「作品」ー『リズと青い鳥』を巡って(みぞれとは別の視点から考察する) - 『錬金術師の隠れ家』より引用
- ラストシーンのハッピーアイスクリーム
もう最高に幸せなみぞれの笑顔。見ている自分もこの一瞬が永遠に続いてほしい・・・って願ってしまいます。お願いだからまだ終わらないで!って(笑)
劇中で初めて学校を出るシーン。 鳥かごから出るという解釈も素敵ですよね。 Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
でも『フルートの光のシーン』と同じく二人は噛み合っていないんだよね。また少しズレてる。その切なさも含めて猛烈に感動します。
ここも劇伴が神がかってるんですよね。最後ピアノのトーンが変わるところで必ず涙が溢れてしまいます。
一見すると静かでなんでもないシーン。でもすごくいろんな思いが織り込まれているんですよね。あのラストシーンの素晴らしさは見事としか言いようがありません。
通常のキャラデに戻れるか心配(笑)
あと、もう一つ言及したいのは西屋さんのキャラクターデザイン。発表された時は違和感が強かったんですよね。こんな生気のないキャラで・・・TV版の希美が好きだったので心配してました。
でも今や、元のデザインに戻れるか心配なほど。ホント良いですよね。
同じ青春でも、TV版が『焼きつくような熱い青春』なら、リズは『消えてしまうような儚い青春』を表現している気がするんですよね。確かにTV版の色彩やデザインではリズを表現しきれない。
シンプルだけどすごくリアル感のあるデザイン。 優子のリボンもリアルな大きさになったのは残念(笑) Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会 |
キラキラ輝くTV版に比べて、カワイイ盛りを排した表現。どのキャラクターも、人間の『生々しさ』がちょっとだけ混じった気がします。
特に麗奈ですね。TVシリーズではキラキラした彼女ですが、本来はああいう印象だろうなって。冷たく厳しい。まさにイメージ通りでした。
あれならデカリボン先輩も食ってかかるはずだよなぁ・・・ってすごい納得してしまった(笑)リズではあんまりデカリボンじゃなくなりましたが。
希美もTV版では本当に可愛いキャラでしたが、リズでは微妙に違和感のある感じ。ほんの少しの『嫌な感じ』がうまく表現されていましたね。
おわりに:山田監督の解釈を楽しめてよかった
山田監督の作品って情報量が多くて一度ではちゃんと受け止められないんですよね。『たまこラブストーリー』も『聲の形』も初見ではちゃんと評価できませんでした。
だから、もし『初見でイマイチ・・・』って感じた人がいたらぜひもう一度見ることを勧めたいですね。
特に今回は原作未読でしたが結果的に良かったな。前作の『聲の形』でもそうでしたが、自分は山田監督&吉田玲子さんの作品解釈がすごく好きなんだと思います。
原作をリスペクトしているのは当然なんですが、セリフに限らず、表現方法も含めて、アニメでしか表現できない方法での再解釈。そこに独特の『優しさ』がにじみ出ていてね。それが素晴らしい。
だから原作に影響されず、まずは純粋に山田監督の解釈を楽しめてよかったなって。心から驚き感動しました。本当に素晴らしい作品でした!
『リズと青い鳥』 公式サイト
http://liz-bluebird.com
関連記事 映画 聲の形 の感想 前編:全てにピントが合った時の衝撃に言葉が出なかった - アニメとスピーカーと‥
追伸:『鎧・・・じゃなくて剣崎』の意味
ちなみに剣崎梨々花ちゃんが、自分の名前を間違えて『鎧・・・じゃなくて剣崎』っていうのは鎧塚先輩の相談をしようと頭一杯でつい出ちゃったって感じですよね。
新山先生が同じように『鎧・・・じゃなくて剣崎さん』って間違えるのは、同じ理由かもしれないけど、自分は『鎧』と『剣』が同じイメージで覚えてて、うっかり入れ違っちゃったって感じかなぁと思いました。
ここなんか面白くて、梨々花ちゃんのキャラ付けとしても秀逸ですよね。原作だとある場面なんですかね?2〜3回目くらいまでどういう意味なんだろうと結構考えてました。