人形を使ったストップモーションアニメということですが、もう信じられないくらい生き生きとした動き!そして表情!最新技術を使っているとはいえ、あまりに美しくて実物をコマ撮りしているとは思えません。これは一見の価値ありですね。
ただ『日本を舞台に』を全面に出していますが、自分には非常にアメリカ的に感じたんですよね。ディズニーの新作と言われてもわからないかな?
監督の日本文化への愛情は感じますが、あくまでアメリカ人視点なので、その部分については最後まで違和感が残りました。
吹き替え版なので特にそう感じたのかな?あまり日本を意識しないで見た方がいいかも。自分は違和感から逆に日本人らしさとは何か?と考えてしまいました。
※ネタバレの無いレビューですが未見の方はご注意ください。
タイトルは知ってはいたけど・・・
映画の日ということもありますが、公開3週目で半分以上席が埋まる盛況ぶり!評判の良さが噂になって客足も伸びているようです。
2016年のゴールデングローブ賞アニメ部門にノミネートされるなど、高い評価の作品なのでタイトルくらいは知ってました。あの時は『君の名は。』がノミネートを逃したので特に記憶に残っているんですよね。
主人公のクボ君。三味線が得意。 見る前は音楽の物語かと思ってたら・・・違ってた(笑) KUBO/クボ 二本の弦の秘密 予告編より画像引用 (当ブログの画像引用について) (C)2016 Two String,LLC/© GAGA Corporation |
ただあまりキャラの絵柄に惹かれなかったし、あらすじもなんだか陰鬱な感じで積極的に見たいなぁという感じじゃなかったですね。
驚異のクオリティ!ストップモーションアニメ
一応ストップモーション作品だってことは知ってはいたんです。人形を少しずつ動かして撮影するやつですよね?
でも本当に?って感じで・・・今でも信じられないんですよ(笑)3DCGじゃないの?って。
この海原も実物をコマ撮りしているそうですが、 はっきり言って信じられないくらいリアル。 (C)2016 Two String,LLC/© GAGA Corporation |
信じられないほどの精巧さ、生き生きとした動きと表情。大波などの背景描写まで実物を使って撮影しているというのは、見ていても本当に信じられないくらい。『目を疑う』とはこのことですね。未だに本当に?って思ってる(笑)
そのくらい最新の3Dアニメーションに見えるんですよね。メイキング映像があるのですが、鑑賞前に見ておけば良かった・・・と後悔しています(笑)
上映中はずっと『やっぱりコレCGだよね?』って思ってたので。(VFX(視覚効果)はしているそうですが)
あまりに精巧すぎてCGと見分けがつかない皮肉
これだけ綺麗なストップモーションアニメだと、本当によくできた3Dアニメとの違いがわからなくなりますね。
ディズニーやピクサーの作品はあまりにリアルで本当に人形が動いているように見えるじゃないですか。逆にKUBOは人形とは思えないほど豊かな表情や動きでCGのように見えてしまう。
最新の3Dプリンタで表情の一部を多数製作 なめらかなアニメーションを実現している (C)2016 Two String,LLC/© GAGA Corporation |
両方が高いレベルに達しすぎると観客は『言われなきゃわからない』これって結構悩ましいというか皮肉な感じがしますね。
現実の人形を使った作品は、むしろ一目でわかるくらいのクオリティーの方が、味わいが出るんじゃないか?って思いました。
リアルになりすぎると実在感が薄れる不思議
例えば、クレイアニメ版のピングーですよね。今はNHKで3D版を放映していますが、古いクレイアニメ版も素朴さが良いですよね。一目で粘土をコマ撮りしていることがわかるので大変さが一目瞭然。でも可愛さは全く劣っていませんし、モノとしての実在感があります。
また、2016年に日本で放映された『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀 』これは、台湾の人形劇を虚淵玄さんが日本アニメの文脈で再構築した作品。特撮やCGによる演出と合わせてかなり意欲的な作品でしたね。
見るからに人形劇な『Thunderbolt Fantasy 』 だが動きや角度で表情を表現できていて感情移入してしまう。 カット割りや構図の工夫で躍動感を表現している。 劇場版『Thunderbolt Fantasy 生死一劍 予告編』より ©Thunderbolt Fantasy Project |
一見すると素朴な人形劇ですが、よく見ると動きや表情に伝統的な技の素晴らしさがあり見応えがありました。動きはKUBOとは比べものにならないシンプルさですが、見ていると不思議と感情豊かに見えてくるんですよね。これは日本の文楽(人形浄瑠璃)と通ずる技だなぁと感心したものです。
それに比べるとKUBOはあまりにもリアル。最新の3Dプリンタとコンピュータによる支援でありえないような美しい動きを実現しています。でも、だからこそ『実物としての存在感』が薄まっているように感じてしまいました。難しいですね。
ちなみにストップモーション作品だと『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(米1993年)が好きだったなぁ。(予告編はこちら)
あくまでアメリカ映画として日本を描いている
映像の凄さに対して、どうしてもこの作品で馴染めなかった部分。それは日本の描きかたなんですよね。ナイト監督は日本で過ごした幼少期の驚きを作品に込めたと聞きます。
実際KUBOからは日本文化に対するリスペクト感はすごく伝わってくるんですよね。でもだからこそ感じる『強い違和感』が最後まで消えることがありませんでした。とはいえ細かいところなんですけどね。
例えば、登場人物のほどんどが『つり目』で描かれていること。そして、役者のセリフや芝居がいかにもアメリカ的なこと。衣装や舞台は日本風を再現しているけど中身はアメリカ人という感じが拭えませんでした。
字幕版なら外国映画として素直に見られたかもしれない。 吹き替え版ではアメリカ的演技に強い違和感を感じてしまった。 アジア系アメリカ人が日本人の演技をしているように見える。 (C)2016 Two String,LLC/© GAGA |
書いてしまうと細かい話なんですが、精巧だからこそ細かい違和感が強く感じてしまうんですよね。町の愛情あふれる親子の演技、子を思う母の演技、いたるところで感じるディズニー的な演技が『アメリカ的価値観』を主張しているようでした。
ナイト監督を通した日本の描きかた
だからダメってわけじゃないんですよ。この作品はあくまでアメリカ人監督によるアメリカ人に向けた作品というのが大前提なんだと思うんです。だからディズニー作品を見るのと同じスタンスで見るべきなんだろうなと。
たとえばナイト監督の発言では、尊敬している宮崎 駿 監督についてこのように言っています。
『宮崎は自身が魅了されるヨーロッパ的なものを統合して、自分のアートの中に織り込んでいる。(中略)宮崎がヨーロッパに対して行ったことを、僕は日本に対してやってみたかったんだ。(中略)僕なりの解釈を表現したかったんだよ。』
KUBO公式ページ PRODUCTION NOTESより引用 © GAGA Corporation.
宮崎駿さんがヨーロッパを舞台にしながら日本人に向けて作品を作ったように、まさにKUBOで描かれた日本は、アメリカ人であるナイト監督のフィルターを通した日本であるということですよね。
それって逆に言えば宮崎作品を見た欧米人は違和感を感じないのか?って興味にもなるのですが・・・どうなんでしょうね。
欧米人に受け入れやすい形に変えた『日本』
『侘び寂び』についても表現していると監督は言っていて、確かにそう感じる部分はあるんですよね。ただこれも、やっぱり外国人視点の日本文化、フランスでいう『Zen(禅)』と同じじゃないかなと思うんですよね。
フランスのZenはすっかりフランス文化に取り込まれて独特の意味合いになっているそうですが、ナイト監督における『侘び』や『寂び』も監督自身が再解釈した『Wabi-Sabi』なのかもしれない。
逆にこのような非現実的なシーンは気にならなかった。 まさに監督のイメージする日本という感じで面白い。 (C)2016 Two String,LLC/© GAGA Corporation |
本来の意味はわかりにくいので、監督が噛み砕いて、誰にでも理解できる普遍的な価値観として提示している。だから『日本人以外の人』にはとても理解しやすいんでしょうね。
『つり目』なのだって『顔立ちも日本人風にしなきゃ観客はわからない』と欧米人にとっての理解しやすさが優先されているのかもしれない。愛情表現の仕方だってアメリカ人が見ると何の違和感もない演技でしょうしね。
色々と考えさせられた作品
今回吹き替え版を見たのですが、英語でしゃべってくれる字幕版だったらもう少し違和感が減ったかもしれないですね。なまじ日本語だから違和感強かったのかも。字幕版の予告を見たら雰囲気違いました。
あ、ピエール瀧さんの演技は割と良かったですよ。ただ先日『アウトレイジ 最終章』を見たばかりだったので、どうしてもヤクザ役のピエール瀧さんが思い浮かんじゃいましたが(笑)
KUBOはゴールデングローブ賞にノミネートされるのも当然の作品だなぁ・・・と思うと同時に、海外の人には『君の名は。』も併せて見てもらって、生の『日本人や文化』を知ってもらいたいな・・・なんて思いました。
ディズニー作品が好きな人には素直に楽しめる作品かもしれませんね。自分はちょっと苦手なんですけどね。だから元々合わないのかも(笑)
ただ、日本人や日本文化を別の視点から考えるきっかけになったし、精巧すぎるストップモーション作品の問題など、色々と新たな視点が得られる作品でした。
【参考リンク】
なぜ“日本”を舞台に選んだのか? 話題のアニメ大作『KUBO/クボ』監督が語る(ぴあ映画生活):ナイト監督の個人的な想いが語られたインタビュー。
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は全日本人が必見の大傑作!その素晴らしさを本気で語る!(シネマズ BY 松竹):KUBOを大絶賛なさっている映画ライターのヒタナカさん。私と反対に吹き替え版をオススメしているので参考に。
KUBO/クボ 二本の弦の秘密 公式サイト
http://gaga.ne.jp/kubo/
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